技術的ヒント1:クローニングと遺伝子合成

1987年にPowellらは遺伝子クローニングに大変革を起こした技術について発表しました。21世紀初めには古典的なクローニング法の限界に取り組むため、合成遺伝子生成が増加し、より統合的な分子遺伝学的エンジニアリングへの目覚ましい転換がなされました。
古典的なクローニング法は1、2回の酵素反応を用いる技術を基礎にしています。様々な量のテンプレートの複製ができるように、異なった反応条件について最適化を行う必要があります。酵素技術の進歩により、異なった酵素を塩基配列特異的な遺伝子や生物種特異的な遺伝子に選択的に運ぶ能力が強化されました。反応溶液や各種塩類の条件もさらに最適化され、従来にない様々なアプローチが可能となりました。
また、遺伝子クローニングの限界を打ち破るため、遺伝子合成技術も改善されました。これにより、DNAフラグメントが10 kb以上の長さを持っていても、十分に合成できるようになりました。遺伝子の合成プロセスの間に生じた読み取りエラーも修正されるため、遺伝子合成にはほとんどエラーが発生しません。合成された遺伝子のタンパク質発現能力を確認することも可能で、遺伝子の機能を転写レベルと翻訳レベルの両方で解析することもできます。遺伝子合成はcDNAライブラリーの作成や、マイクロアレイ用のcDNAの生成、遺伝子治療ベクターの設計、遺伝子変異体の産生に利用されています。


 

古典的なクローニング法を選択すべき時

遺伝子を合成するには、従来のクローニング法を用いて目的の遺伝子配列がすでに知られている必要があります。ただし、データベースで配列のエラーが発見された場合には、合成された遺伝子にも含まれてしまう可能性があります。例えば、データベース内の天然のAMV遺伝子の配列は3つのエラーを含んでおり、それは古典的なクローニング手法を用いて検証することができました。
さらに、遺伝子の合成技術には用いられるオリゴヌクレオチドの質によっても大きく左右されます。従って、遺伝子の合成技術における様々な限界によって、古典的なクローニング法が優先的な選択肢になることもあります。遺伝子合成のために合成したオリゴヌクレオチドは、配列特異的にアニーリングし、ライゲーションやポリメラーゼ反応のプローブとして作用する必要があります。さらに、サブクローニングの必要も状況によってはあり得ます。古典的なクローニング法には、適切な酵素を用いた場合、ある時間軸などで発現する遺伝子や自然発生したSNPを発見する潜在的な能力を秘めています。プルーフリーディング機能や熱安定性などが高く半減期が長い酵素を用いることで、発現した転写産物の正確な複製を完全長でクローン化することができます。

クローニングのための核酸精製に関して重要なことは何か

  • タンパク質発現を成功させるためには、その出発点であるRNAを高純度で得ることです。

ヒント: ダウンストリームのクローニング・アプリケーションのため、ロシュ・ダイアグノスティックスのハイピュアRNAアイソレーションキット、または ハイピュア RNAキット(組織)を用いて、高い感度、再現性、特異性をでRNAの精製を確実に行っていただくことが重要です。これらのキットはゲノムDNAを除去するためのオンカラムDNase処理を標準化し、その後のクローニングに悪影響を及ぼす非特異的な副産物を極力排除いたします。複数のアプリケーションや様々なサンプルにおいても、1つのキットが共通で利用でき、コストも削減できます。


  • スターティングマテリアルの適切な処理や抽出は、特にRNAサンプルを精製する際に、非常に重要です。サンプル内に存在するRNaseに起因するダメージや分解が生じないように、温度が高くなりすぎないように常に注意することが必要です。

ヒント:ロシュ・ダイアグノスティックスの プロテクターRNaseインヒビターは+60°CまでRNaseの阻害効果を保持しているため、より高い温度での逆転写反応においてもRNAを保護できます。このような高温下においてGC-リッチなRNAを転写する場合でも、 トランスクリプター ハイフィディリティ cDNA合成キット に含まれる、トランスクリプター逆転写酵素は活性を失わず、バイアスのない逆転写反応が行えます。


  • スターティングマテリアル(cDNAやmRNA) の質を最適な状態で確保し、可能な限り最良のPCRパフォーマンスを維持することが重要です。スターティングマテリアルが完全性と量についてはゲル電気泳動法を用いて検証することをおすすめします。
  • cDNAの合成、増幅、あるいは酵素修飾の後の、DNAフラグメントはクローニングするために精製を行います。これらのDNAフラグメントはアガロースゲル電気泳動法を用いて分離後、再精製を行いますが、その必要性がない場合には、先の酵素反応溶液のまま次の反応に使用することができます。

ヒント:効率的かつ確実なタンパク質発現のた、DNAフラグメントを精製するために ハイピュア PCR産物 精製 キット または ハイピュアPCRクリーンアップマイクロキットを使用することができます。ハイピュアPCRクリーンアップマイクロキットを用いて、100 bp未満のプライマーダイマーを除去したり、核酸を10 µlに濃縮することも可能です。アガロース片に含まれるDNAフラグメントは ハイピュア PCR産物 精製 キットを用いて簡単に精製するができます。


エラーとフレーム・シフトを最小限にする方法

正確性の高いプルーフリーディング機能を持ったPCR酵素がを用いていただくことが重要です。核酸解析で使用される一般的なDNAポリメラーゼと比較して、cDNA合成で通常使用されるレトロウイルス由来の逆転写酵素は高いエラー率を示します。これに由来する正確性の低下は、相当数の塩基置換やフレーム・シフトを引き起こし、それは次のPCR反応でさらに増大いたします。

  • 逆転写およびPCR反応のために目的遺伝子の正確な複製が確実に実施されるように、プルーフリーディング機能を持った酵素をすべての過程で利用し、ヌクレオチドの間違った取り込みを防ぐことが重要です。

ヒント:ロシュ・ダイアグノスティックスの トランスクリプター ハイフィディリティ cDNA合成キット は、通常の逆転写酵素より7倍も高い読み取り精度を備えた、プルーフリーディング機能を持った逆転写酵素です。そして、エラーのないcDNAに対しては、 PwoスーパーイールドDNAポリメラーゼのような18倍という 非常に高い精度をもつプルーフリーディング機能を持ったDNAポリメラーゼと組み合わせることで、エラー率を最小限にとどめ、フレーム・シフトを防ぐことが重要です。


  • フレーム・シフトや間違って取り込まれるヌクレオチドを防ぐためには、用いるプライマーの相補的な配列を確実にするために、十分な考慮の元で設計を行う必要性があります。
  • ポリメラーゼのエラー率を最小限にするために、常にバランスがとれた状態で全4種類のdNTPを使用することが重要です。 ― 濃度が不均衡な場合には熱安定性DNAポリメラーゼの正確性が減少する可能性があります。

ヒント:PwoスーパーイールドDNAポリメラーゼ、dNTPack には別のガラスバイアルにてdNTPヌクレオチドをご提供しております。これにより、99%を超える最高純度でバランスのとれたPCRグレードのdNTP ヌクレオチドをお届けすることを心がけております。エラーを最小限にするために、本製品のご利用をお勧めいたします。


  • 最適のPCR増幅条件を確保することが重要です。
  • 細胞の適切な成長条件を確保し、アポトーシスなどによるDNA切断を避けることも重要です。

完全長の長さをもつクローンを得るために何が重要か

  • cDNA合成時に、長いポリAテール内において、オリゴ(dT)プライマーのミスプライミングを避けることが重要です。

ヒント: 非常に長い、ポリAテールの最初の部分(5’末端)に特異的にプライマーをアニーリングするために トランスクリプター ハイフィディリティ cDNA合成キットのアンカーオリゴ(dT)18プライマーを用いることが可能です。


  • 目的の遺伝子を最適に逆転写し、増幅することができる、逆転写酵素とDNAポリメラーゼを選択することが重要です。

ヒント: トランスクリプター ハイフィディリティ cDNA 合成キットは14 kbまでのRNAをエラーなく逆転写でき、エキスパンド20 kbPLUS PCRシステム はDNAを35 kbまで増幅することができます。


  • プライマーを十分に設計することによってミスプライミングを避けることが重要です。両プライマーのメルティング温度を同じように設計し、両プライマーを同一の濃度で使用することが重要です。
  • 確実で効果的なPCRの結果を得るため、適切なDNAポリメラーゼを選択することが重要です。

ヒント: 当社の専用パンフレット「Tools for Amplification」を用いて、様々な条件において最適のDNAポリメラーゼが簡単に選択することができます。


  • 酵素濃度をあげることは、特異性の低下の原因となり、望ましい結果を生み出さない可能性があります。
  • 一般的に Mg2+濃度が低い場合、より特異性の高い増幅が行われ、濃度が高い場合には特異性の低い増幅が行われる傾向があります。

脱リン酸化とライゲーションについて何が重要か

  • 最適な結果のため、PCRフラグメントを適切なベクターにライゲーションすること。高レベルのタンパク質発現が目標である場合、ホスト細胞に対して高発現の発現ベクターを選択することが重要です。
  • 過剰な塩濃度やプライマーダイマーなどの非特異的なDNAフラグメントの混在がライゲーション反応に悪影響を及ぼすことがあるので、ライゲーションに用いる前にPCRフラグメントを精製することをお勧めします。

ヒント: ラピッドDNAデフォス&ライゲーションキットを使用することによって、制限酵素処理前に必要な精製ステップを省略することができます。 キットに含まれるのリコンビナントのラピッド アルカリフォスファターゼを使用し、室温下で10分間の処理で5’のリン酸をすみやかに取り除くことができ、わずか5分間でライゲーション反応も行えます。この優れた酵素は+75°Cで2分間、熱することによってすばやく不活性化されるため、時間のかかる精製段階を行う必要もありません。

標識タグを選ぶとしたらどれか

最適なエピトープ・タグはタグ標識されたタンパク質の機能や細胞ないのプロセシングに干渉せず、ウェスタンブロッティング法や免疫蛍光顕微鏡検査法で強力なシグナルを発生するものです。ある標識タグが特定のタンパク質において、どのように振る舞うかを正確に予想することはできません。よりよい結果のため、タンパク質におけるタグの位置を考慮すること(すなわち、それはN末端か、それともC末端か、またはリーディング・フレーム内のどこか等)が重要です。


注記: タグをC末端に付けることで、タグ標識タンパク質の完全長の産物を選択的に認識をすることができます。しかし、生理的な機能を維持した発現ができるかどうかは、さらにタグのポジションについての検討が必要です。


  • N末端あるいはC末端におけるタグ標識によって、タンパク質の発現量の差につながる可能性があります。
  • ヒスチジン・タグは哺乳類細胞に対するベストチョイスではありません。 ― 哺乳類細胞はヒスチジンの繰り返し配列を持つタンパク質も多く、内在性のmycタンパク質もあります。昆虫細胞ではバックグランド情報があまりなく、これらのレベルは不明です。従って、哺乳類細胞では以下の標識タグが望ましいと思われます。 ― HA、VSV-G、またはProtein Cなど。

ヒント:ウェスタンブロット法と免疫沈降法でのHAタグ標識タンパク質を検出するために、抗HA抗体ハイアフィニティがお勧めです(ラット・モノクローナル抗体、クローン3F10)。微量のタンパク質を検出し高感度をアッセイを行うことができます。抗HA抗体のクローン12CA5と比較して、交差反応性が低いのでバックグラウンドが低くでき、また、アフィニティが高いため、抗体濃度を下げて利用することも可能です。

ベクターはタンパク質発現率に対して影響を及ぼすか

各アプリケーションに適切なベクターを選択することは重要です。トランスフェクション後に細胞が十分に成長しない場合、発現した外来性のタンパク質が有害な影響を細胞に及ぼしている可能性や、トランスフェクション試薬に問題がある可能性が考えられます。当然、これらの可能性がすべてではありません。ある種のベクターは細胞に悪影響を及ぼす配列を含んでいる場合もあります。さらに遺伝子の発現が常に細胞の成長と相関するとは限らないことも示されています(タンパク質発現アプリケーションノート No.1 をご参照ください)。細胞増幅もまたタンパク質発現や使用されたトランスフェクション試薬と相関しない可能性があり、ベクター内のある機能部位のある種の副作用が影響しているのかもしれません。遺伝子発現プロファイリングによって、ベクター・バックボーン(1-3)の影響を確認することができ、これによって各アプリケーションに適したベクターを選ぶ重要性がさらに増してきています。


  1. FuGENE®HD トランスフェクション試薬:Choice of Transfection Reagent with Minimal Off-Target Effect as Analyzed by Microarray Transcriptional Profiling. : Susan Calvin, Jay Wang, Jeff Emch, Simone Pitz, and Linda Jacobsen. Biochemica 4, 2006.
  2. FuGENE®HD トランスフェクション試薬を用いた優れたマイクロアレイ結果: Linda Jacobsen, Susan Calvin, and Simone Pitz. Biochemica 2, 2009.
  3. トランスフェクションの転写に与える影響:The Potential For Misinterpretation Of Gene Expression Data Generated From Transiently Transfected Cells.:Linda Jacobsen, Susan A. Calvin, and Edward K. Lobenhoefer. Biotechniques July 2009 47(1):617-24.

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