ChIPアレイ解析 技術概要

ChIP_GeneExp.bmpヒストン修飾およびヌクレオソームポジショニングなどによるエピジェネティックなメカニズムは、遺伝子発現、遺伝的刷り込み、染色体安定性、X 染色体不活性化の調整において極めて重要な役割を担っています。成長、分化や疾病と、エピジェネティックな変化との関連性を解明するための多くの研究に、タンパク質とDNA との相互作用をゲノムレベルで調査することのできるChIP アレイ解析(ChIP=Chromatin Immunoprecipitation クロマチン免疫沈降とタイリングアレイの組み合わせによる解析)が利用されています。こうした研究は、転写因子やポリメラーゼなどのDNA 結合箇所の同定や、クロマチン構造の解析などから取り組まれており、ゲノムレベルの解析や、生物学的に重要なゲノム領域に焦点を当てた解析が行われています。

 

► ChIPアレイ解析 実験概要
► NimbleGenのChIPアレイ解析の特徴
► NimbleGenのChIPアレイ解析用アレイの種類(アレイデザイン)
► ワークフローの選択: ご自身で実験 or 受託サービスを利用
► 実験データ例
► 文献紹介
► ChIPアレイ解析 受託サービス
► ChIPアレイ解析用 マイクロアレイ販売価格
► ユーザーズガイド等

 

 

■ プロトコール概要

chip_protocol.bmp

1. サンプルインプット:
タンパク質/ DNA の相互作用を維持するように細胞をクロスリンクし、クロマチンを精製します。


2. サンプルの断片化:
固定されたクロマチンを低分子断片(200 ~ 1,000 bp)に断片化します。


3a. 免疫沈降:
コントロール(インプット)サンプルとして一部を分取しておき、残りのサンプルはChIP- グレードの抗体と結合させ免疫沈降を行います。


3b. 濃縮:
抗体複合体をアフィニティで濃縮し、非結合断片を洗い流します。


4. 増幅:
免疫沈降により濃縮されたDNA 断片(IP)と分取しておいたインプットサンプルを増幅・精製します。


5. 標識:
IP およびインプットサンプルを、それぞれCy5、Cy3 で標識します。


6. ハイブリダイゼーション:
標識IP およびインプットサンプルをそれぞれ適当量プールし、NimbleGen ChIP アレイに競合ハイブリダイゼーションさせます。


7. アレイの洗浄・乾燥:
ハイブリダイゼーション後のアレイは、NimbleGen ウォッシュバッファーキットを使用して洗浄し、NimbleGen マイクロアレイドライヤーで乾燥させます。


8. アレイのスキャニング:
洗浄・乾燥後のアレイはNimbleGen MS200 マイクロアレイスキャナーを使用して635 nm(Cy5 チャネル)および532 nm(Cy3 チャネル)でスキャンします。


9. データ解析:
NimbleScan ソフトウェアを使用してデータを抽出します。IP 対インプット比が算出され、比率データから判定されたピークは遺伝子の転写開始点と共にゲノム上にマップされます。データ解析ステップについては「 ChIPアレイ データ解析の流れ 」をご参照ください。

 

▲図1 ChIPアレイ解析実験手順

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■ NimbleGenのChIPアレイ解析の特徴

  • 高解像度:
      標準デザインでは 100bp 間隔でプローブをタイリング。
  • 高密度アレイによる網羅的解析:
      ハイスループット解析でも広範囲のゲノム領域の解析が可能。全ゲノムの網羅的解析も 10 枚セットや 4 枚セットで解析可能。4.2M アレイの利用で更なる効率化!
  • 網羅的解析 or コストパフォーマンス:
      網羅的解析には全ゲノムタイリングアレイやデラックスプロモーターアレイを。ハイスループット解析にはマルチプレックスアレイのプロモーターアレイや、ターゲット限定アレイなどを!
  • 高感度検出:  
      ロングオリゴプローブを高密度に利用することにより、ChIPによる濃縮率がわずか 1.25 ~ 2 倍でも確実に検出。
  • データの視覚化で解釈が容易に:  
      SignalMap ソフトウェアでChIPエンリッチ領域を容易に視覚化(比較)。

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■ NimbleGenのChIPアレイ解析用アレイの種類(アレイデザイン)

NimbleGen の ChIP アレイ解析用デザインでは、50-75mer のDNAプローブを平均 100bp (標準設定)に配置したタイリングアレイを使用します。

ChIP アレイ解析で使用するアレイデザインは大きく分けて 3 つの種類があります; 全ゲノムタイリングアレイ、プロモーターアレイ、カスタム(ターゲット限定)アレイ。それぞれの特徴は下記のとおりです。

○ 全ゲノムタイリングアレイ : 
領域等を限定せずに全ゲノムに対してプローブを設計しています。1x2.1M アレイ 10 枚のセットと、4 枚のセットの 2 つの種類があります。4 枚セットはコストを抑えて全ゲノムが解析できるように設計した ECONOMY セットアレイで、10 枚セットと比較して平均プローブ間隔が約 2 倍の 203~205bp となっています。ラットの場合には4枚セットアレイはカタログ製品として提供していません。

 Human ChIP WG arrays.GIF

▲図2-1 ヒト ChIPアレイ解析用全ゲノムタイリングアレイ プローブ設計模式図

 

○ プロモーターアレイ : 
コストを抑えて高解像度のデータを得るために、各遺伝子のプロモーター領域にプローブを設計しています。

・ 網羅的な解析をしたい場合にオススメ! 「デラックスプロモーターアレイ」: プロモーター領域に加え、CpG アイランド領域、miRNA プロモーター領域へもプローブを配置しています。プロモーター領域として全遺伝子の転写開始点の前後 11kb に渡ってプローブを設計していますので広範囲なデータを得ることができます。1x2.1M アレイフォーマットのアレイデザインですので、1 サンプルの解析に 1 アレイスライドが必要です。

・ サンプル数が多い場合にオススメ! 「3x720K RefSeq プロモーターアレイ」: デラックスプロモーターアレイと異なり、CpGアイランドやmiRNA プロモーター領域にはプローブは配置されていません。また、プロモーター領域として全遺伝子の転写開始点付近を対象としていますが、プローブ設計範囲は各転写開始点の前後約 4kb です。3x720K アレイフォーマットのデザインですので、1 アレイスライドで 3 サンプルの解析が可能です。

・ サンプル数が少なく、コストを抑えた解析をしたい場合には・・・ その他のプロモーターアレイ: プロモーター領域をどのデータベースから取得しているかで複数のアレイデザインをご用意しています。1x385K アレイフォーマットのアレイデザインですので、解析コストを抑えることができますが、プローブ設計範囲が狭い場合や、対象遺伝子が限定的である場合がありますので、デザインの詳細をご確認の上でご選択ください。

Human ChIP Prom arrays.GIF

▲図2-2 ヒト ChIPアレイ解析用プロモーターアレイ プローブ設計模式図

 

○ カスタムアレイ(ターゲット限定アレイ): 
米国の ENCODE 計画の解析結果との比較を行うためなどのアレイ、Non-Coding RNA 解析用アレイ、HOX 遺伝子解析用アレイなどがカタログアレイとして設計されています。また、ご自身の研究対象に合わせたターゲット限定アレイをカスタムアレイとして設計することも可能です。カスタムアレイの設計は、設計コンセプトを添えて Roche NimbleGen にご依頼ください。 

 

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■ ワークフロー: 受託サービス & アレイ販売

お客様の研究のご予定、ご予算、研究対象に合わせて、受託サービスをご利用いただくことも、マイクロアレイをご購入いただき実験していただくこともどちらも可能です。

 

■  受託サービス :
カタログアレイをご指定いただくか、カスタムアレイの設計をご依頼いただき、ゲノムサンプルを送付いただきますと、ChIPアレイ解析データを納品いたします。[アレイデザイン情報、蛍光シグナル値の生データ、テストサンプル対リファレンスサンプルシグナル比から解析したゲノムビューワー対応ChIP解析結果ファイル、ChIPアレイ解析結果概要(エクセルファイル)、ゲノムビューワー対応アノテーションファイル]

▲図3-1 ChIPアレイ解析受託サービスワークフロー

 

■ アレイ販売 :
カタログアレイをご指定いただくか、カスタムアレイの設計をご依頼いただき、ご自身で実験を実施してください。

▲図3-2 ChIPアレイ販売ワークフロー

 

 

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■ 実験データ例

▲図4 NimbleGenChIPアレイ解析によるクロマチン構造の解析

クロマチンには、活性化クロマチン領域と不活性化クロマチン領域があり、活性化クロマチン領域で遺伝子の転写が行われています。ヒストンのアセチル化はクロマチンの活性化に、メチル化は不活性化に関連していることが知られています。つまり修飾化ヒストンのゲノムDNAへの結合領域を同定すれば、クロマチンの活性化・不活性化領域を推定できます。
図4は抗アセチル化ヒストン抗体、抗メチル化ヒストン抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体を用いてそれぞれ免疫沈降を行って得たゲノムDNA断片をラベル化してChIP解析した結果を示しています。それぞれinputに対してのIPサンプルでの蛍光強度比をプロットしていますので、Y軸で高い値を示すゲノム領域はIPサンプルでエンリッチされている、つまり、それぞれの修飾ヒストンまたはRNAポリメラーゼがそのゲノムDNA領域に結合している事を示唆しています。結果を見ますと、アセチル化ヒストンの結合領域とメチル化ヒストンの結合領域は明確に分けられ、クロマチンの活性化・非活性化領域を区別する事が可能である事が示されました。さらに、アセチル化ヒストンの結合領域とRNAポリメラーゼ結合領域は一致しており、この領域の下流で遺伝子の転写が起こっているという事を示唆しています。

 

▲図5 転写開始複合体結合領域の検出による新規遺伝子の探索

発現している遺伝子の転写調節領域には転写開始複合体が結合していることが知られています。NimbleGen ChIPアレイを用いてこの複合体のゲノムDNAへの結合部位を調べました。その結果、既知の遺伝子の転写調節領域だけでなく、遺伝子として同定されていない領域にもピークが検出され、転写調節複合体が結合する新規の遺伝子転写調節領域であることが推定されました。このようにピークが検出された部位のほとんどに(>90%)新規遺伝子が存在する事が示唆されました。

 

▲図6 転写因子Suz12の標的遺伝子の同定

転写因子Suz12(Suppressor of zeste12)をノックアウトした細胞で2つの遺伝子(EIF3S10, PLCB4)の遺伝子発現が変化する事が明らかにされています。これらの遺伝子がSuz12により直接的に発現調節されるかどうかを調べるために、Suz12の結合部位をChIPアレイを用いて解析しました。その結果、EIF3S10の転写調節領域にはSuz12が結合していることが示され、EIF3S10がSuz12の標的遺伝子であることが明らかとなりました。一方でPLCB4の転写調節領域にはSuz12は結合しておらず、Suz12のノックアウト細胞でPLCB4の遺伝子発現はSuz12の間接的な作用で調節されている事が示されました。
※ 出典:A.Krmizis, et al.: Gene & Dev., 18, 1592 (2004)

 

▲図7 ヒストンH3のトリメチル化修飾の解析

ヒストンH3の9番目と27番目のリジン(H3K9, H3K27)へのメチル化は、共に転写抑制に寄与するといわれています。Ntera4細胞でのヒストンの修飾をヒトデラックスプロモーターアレイで解析しました。緑:H3K9me3のIP/inputのシグナル比、青:H3K27me3のIP/inputのシグナル比、茶色:一次転写産物、転写開始点(TSS)です。19番染色体上のジンクフィンガータンパク質のプロモーター領域に結合しているヒストンはK9がトリメチル化修飾されており(左図)、一方で、7番染色体上のHoxAクラスターのヒストンはK27がトリメチル化修飾され(右図)、異なる修飾により転写が制御されていることが推定されます。また、それぞれのサンプルで2枚ずつのアレイを使用していますが、再現性の高いデータが得られていることが示されています。

 

▲図8 全ゲノムタイリングアレイ結果からカスタムアレイを再設計

1x385K全ゲノムタイリングアレイ結果(A)を元に解析領域を絞り込み、カスタムデザインアレイを作成して実験を行いました(B)。同じ抗体での実験(TAF1: 最上段と最下段)は両アレイでよく一致しており、ターゲット領域を絞り込むことで効率よくデータが取得できることを示しています。

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