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cDNA-PCRアンプリコンに対するパイロシークエンシングを行い、感染症、ワクチン開発、移植の研究に不可欠な前臨床モデル となる霊長類を対象に、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスⅠの網羅的な遺伝子型決定を行いました。アカゲザル、カニクイザル、ブタオザルの配列に 基づくタイピングにより、500以上のユニークなMHCクラスⅠ配列が決定されましたが、その半数近くについてはこれまで報告がないものでした。パイロ シークエンシングは、霊長類およびおそらくヒトに対してもMHCウルトラハイスループット・ジェノタイピングに有用な方法でかつ非常に高感度であることが 示されました。
T細胞応答の研究には、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の網羅的なジェノタイピング法が不可欠です。アカゲザル(Macaca mulatta)、カニクイザル(M. fascicularis)、ブタオザル(M. nemestrina)のような既存の前臨床モデル生物のMHCは、類を見ない複雑さを示しています。マカク属のハプロタイプ間での遺伝子の差異だけでな く、アカゲザルとカニクイザルでは少なくとも22のHMCクラスⅠ遺伝子に転写レベルの差異があることが確認されています。現在、マカク属のMHCクラス Ⅰ配列は900以上知られていますが、確実なジェノタイピングアッセイが可能なのはそのうちのごく一部にすぎません。
動物モデルの有用性を最大限に高めるためには、網羅的MHCクラスⅠジェノタイピング用ウルトラハイスループット・プラットフォームを用いたアプローチが 必要です。Wisemanらは、アカゲザル、カニクイザル、ブタオザルのMHCジェノタイピングに、cDNA-PCRアンプリコン大規模並列パイロシーク エンシング法を適用したと報告しています。本稿で示す、ゲノムシークエンサーFLXシステムを用いたパイロシークエンシングは、バイオメディカル研究で前 臨床モデルとして用いられるすべてのマカクザルに対しMHCクラスⅠの完全ジェノタイピングを行うための実用的な方法を紹介します。
マカクザルのサンプル
9施設から入手した92頭のマカクザルに由来するサンプルを使用しました。すべてのマカクザルは、各施設の動物実験委員会の規則とガイドラインに従って扱 いました。
一次cDNA-PCRとプーリングの方法
細胞内の全RNAは、市販のシステムを用いてcDNAに変換しました。マカク属のクラスⅠ配列のエクソン2の190 bpにわたる一次cDNA-PCRアンプリコンは、市販のハイフィデリティポリメラーゼを用いて作製しました。各PCRプライマーには、454シークエン シング用のアダプター配列に加えて12種類の10 bp multiplex identifier(MID)タグ配列のうちの1つずつを割り当てました。作製した一次アンプリコンは精製して等モル濃度にノーマライズ後、ゲノムシー クエンサーFLXによる解析用にプール(12頭/プール)しました。
emPCR増幅とパイロシークエンシング
emPCR増幅とパイロシークエンシングのステップは、ゲノムシークエンサーFLXを用いて、メーカーのプロトコールに従って行いました。パイロット実験 として、1プール12頭の各アンプリコンプールについて7 0 × 7 5 m m のS t a n d a r d PicoTiterPlate Deviceの4分の1領域を、フォローアップ実験として4プールのそれぞれのアンプリコンプールを16分の1のプレート領域を用いてシークエンシングを 行いました。
データ解析
イメージプロセシングとベースコールは、ゲノムシークエンサーFLX付属のソフトウェアを使用しました。次いで高品質シークエンスリードを、個々のMID タグごとに分類し、各リードをアセンブルしコンティグを形成して、各マカクザルの配列と100%一致するか確認しました。得られたコンティグを Nucleotide Basic Local Alignment Search Tool(BLASTN)を使用して、マカク属のMHCクラスI配列に関するインハウスのカスタムデータベース比較解析を行いました。個体間の転写発現レ ベルをノーマライズするために、各MHCクラスⅠ配列について検出されたシークエンスリード数を、各個体のコンティグ作成に用いたシークエンスリード総数 で割算し ました。GenBankのリストに存在しないMHCクラスⅠ配列は、各マカク属の生物種記号と近似の遺伝子座を用いて表記しました。
パイロシークエンシングによるマカクザルのMHCジェノタイピング
マカク属のMHCクラスⅠAとⅠBの遺伝子座内にある高度に保存された配列に基づいたプライマーを用いて、ユニバーサルな190 bpのcDNA-PCRアンプリコンを設計しました(図1)。ゲノムシークエンサーFLXの1回のパイロットランで48頭のカニクイザル、ブタオザル、ア カゲザル(中国およびインド由来)のアンプリコンのシークエンシングを行いました。これらのアンプリコンは、10 bpのMIDタグで識別した12頭ずつの計4プールに分けました。Wisemanらは、50万ほどの高品質リードから成る約1億塩基の高品質配列情報を得 るこ とができました。このリード数は、インド由来アカゲザルサンプル群の1頭あたり平均で9,315リード(範囲7,538~10,769)に相当します。
ゲノムシークエンサーFLXの感度を確認するために、特性の明らかなMHCハプロタイプがホモ接合であるモーリシャス由来カニクイザル4例について 検討しました。これまでに報告されているすべてのMHCクラスⅠAとⅠBの配列が認められ、転写レベルはMHCクラスⅠの総シークエンスリード数に対し て、Mafa-b*0440101の27.8%からMafa-B*0550101の1.4%までの範囲となりました(図2a)。さらに、総シークエンス リード数に対して0.3~2.2%の転写レベルを示す5つの新規配列が検出されました。MHCがホモ接合であった残りの3例、ならびにヘテロ接合であった 8例でも、これと同等の結果が得られました。モーリシャスのサルのMHCハプロタイプでは、それぞれ平均7つのM a f a - B の転写配列に加え、classicalなMafa-A 配列とnon-classicalなMafa-E 配列が2つまたは3つ転写されています。アカゲザルでも、これと類似の結果が得られました(図2b、c)。インド由来アカゲザルのMHCクラスⅠ配列は比 較的明らかにされているのに対して、中国由来のホモ接合アカゲザルでは6つのMamu B 様配列のうちの4つがこれまでに報告されていません。ブタオザルでは、これまでに報告されていない配列の出現率(prevalence)がさらに高く、 136のMHCクラスⅠ配列のうちの100以上がこ れまでに知られていないMHCの転写産物でした。
Wisemanらはフォローアップ実験として、シークエンスのカバレッジの深さを小さくすることにより、大規模集団に対するゲノムシークエンサー FLXでのジェノタイピングの効率を最大限に高めることができるかどうかを検討しました。70×75 mmのStandard PicoTiterPlate Deviceの16領域のうちの1領域を用いて、1プール12頭、計4プールのアカゲザルのアンプリコンに対するパイロシークエンシングを行いました。 カバレッジは1桁小さくなり、1例あたりのシークエンスリード数が約800となりましたが、1例あたり平均20.5のMHCクラスⅠ配列が同定されました (これに対してパイロット実験では24.3)。このことから、感度をやや低下させた場合でも、ゲノムシークエンサーFLXによる解析では既存の方法よりも はるかに網羅的なジェノタイピングができることがわかります。
マカクザルのMHCに対するパイロシークエンシングに基づく ジェノタイピングの精度
シークエンスに基づくジェノタイピングでは、ポリメラーゼによる誤った取り込み、またはシークエンシングのアーティファクトによって、誤差が累積しやすく なります。完全に一致するリードが5個以下(パイロット実験)または2個以下(フォローアップ実験)の場合、その後のBLASTN解析の対象にしないよう なフィルタリングステップを追加することでこれらのアーティファクトを減らすことが可能です。
フィルタリング後に得られたリード数のうちの98.3%以上は、BLASTN解析によりこれまでに報告されているMHCクラスⅠ配列か、報告されていない 配列かが判定されました(表1)。このフィルタリングステップを加えることにより、その後に解析したすべてのデータにおいて全体的なエラー率を1.7%以 下にまで抑えることができました。残りのわずかなアーティファクトは、簡単な手作業で個体内および個体間での配列比較を行うことで除くことができます。こ のように、ゲノムシークエンサーFLXでのパイロシークエンシングにおけるエラー率は低く許容可能です。フィルタリングステップは、ここで示したMHCク ラスⅠジェノタイピングのデータすべてについて適用しました。
実験上のアーティファクトを取り除くために、血統の明らかなカニクイザルにおけるMHCクラスⅠ配列の分布について検討しました。各MHC転写産物の相対 的な発現レベルは、親子間で共有されたハプロタイプと極めて一致していました。これらの共有されたMHCクラスⅠハプロタイプの全転写産物のうちのわずか 0.2%にすぎないアレルも検出することができました。
Wisemanらは、パイロシークエンシング法の精度についてさらに検討し、マカクザルの現時点で利用可能な唯一の完全なゲノム配列のあるハプロタイプを 持つインド由来アカゲザルについて解析を行いました。このB11aハプロタイプには、少なくとも14の機能的な遺伝子産物をコードしうる19遺伝子座があ ります。cDNAクローニングとサンガー法によるシークエンシングではこれらの遺伝子座中8遺伝子座について同定できましたが、高感度のゲノムシークエン サーFLXで解析した場合は、13以上の遺伝子座からのmRNA転写産物を同定することができました。また、血縁関係のない個体間で共有された別の祖先ハ プロタイプについても、同様のクラスⅠの転写産物プロファイルが一貫して観察されました。このことから、ゲノムシークエンサーFLXによる解析では、個体 内でのクラスⅠの相対的転写発現レベルについて、半定量的な評価ができることが示唆されます。
高頻度クラスI Mamu 遺伝子配列の同定
ゲノムシークエンサーFLXシステムを用いて、4つの独立したソースから得たインド由来および中国由来のアカゲザル68頭のMHCクラスⅠの遺伝子型とそ の発現プロファイルを網羅的に検討しました。アカゲザルの集団からは278のクラスI配列が検出され、そのうちにはこの集団内の10%以上のサンプルで、 33もの独特なMamu-A、Mamu-B、Mamu-E 配列が比較的高い転写レベルで発現していることを確認することができました(1例あたり全配列数の4%以上)。このような高頻度にみられるアレルは、機能 的免疫解析(functional immune characterization)において優先度の高い検討対象となる可能性があります。
サマリー
マカクザルは、感染症、ワクチン、生体防御、移植に関する研究に不可欠な前臨床モデルですが、残念なことに、これまでに報告されているすべての霊長類のう ちで最も遺伝学的に複雑なMHCを持っているため、既存のMHCタイピングの方法では十分ではありません。本稿で示したとおり、ゲノムシークエンサー FLXシステムを用いた大規模並列パイロシークエンシングではコスト効率の高いMHCクラスⅠの網羅的ジェノタイピングが可能となることから、免疫学的研 究を進める上でマカクザルの利用が革新的に増大する可能性があります。
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| 図1:既知のクラスⅠ Mamu 遺伝子産物の多型 (a)マカクザルのクラスⅠ遺 伝子のドメイン構造。エクソン2がa1ドメインに相当します。(b)クラスⅠ Mamu 遺伝子産物におけるアミノ酸変異の分布。報告されている418のMamu-A とMamu-B のアレルの推定アミノ酸配列のアライメントを行い、各 アミノ酸残基についてコンセンサスと異なる頻度をプロットしました。矢印は、エクソン2がコードするペプチド結合ドメインに隣接する高度に保存された領域 内にある、この研究で用いられたPCRプライマーの位置を示します。 [出典:Wiseman RW et al. (2009)Nat Med, doi:10.1038/nm2038] |
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| 図2:MHCクラスⅠの転写レベルのプロファイル 各クラスⅠ配列の頻度を、各マカ クザルについて評価したMHCクラスⅠ配列の総リード数に対する割合(%)で示しています。赤色バーはこれまでに報告されていないMHCクラスⅠ配列を示 します。Mafa-A2*05g などのグループ名は、エクソン2の外側部分における少数のヌクレオチド置換が異なるMafa-A2*05 様配列を含む大きなファミリーを示します。スラッシュは、得られた配列が2つ以上のクラスⅠアレルのどれに属するかが不明確であることを示しま す。(a)M1ハプロタイプがホモ接合であるモーリシャス由来のカニクイザル。(b)B24ハプロタイプがホモ接合であるインド由来のアカゲザル。(c) これまでに知られていないMamu-B ハプロタイプがホモ接合であり、これまでに報告されていない転写量の多いMamu-B 配列がいくつか発現している中国由来のアカゲザル。 [出典:Wiseman RW et al.(2009)Nat Med, doi:10.1038/nm2038] |
Wiseman RW et al. (2009)Nat Med, doi:10.1038/nm2038
This article was summarized for BIOCHEMICA from Wiseman RW et al. (2009)Nat Med doi:10.1038/nm2038.
BIOCHEMICA2010 NUMBER1 (No118)
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