Bortezomib暴露後のSH-SY5Y神経芽腫細胞における広範囲なプロテアーゼ遺伝子の発現変化

Gene Expression Corner

Helga Barti-Juhász1, András Pazsitka1, István Peták1,2, and Rudolf Mihalik1*
1 I. Dept of Pathology and Experimental Cancer Research, Semmelweis University, Budapest, Hungary; 2 KPS Medical
Biotechnology and Health Care Services Ltd, Budapest, Hungary
*Corresponding author: mihalik@korb1.sote.hu

イントロダクション

 

神経芽腫細胞株は、細 胞死を誘導する化学療法に対する神経芽細胞腫の反応性や、その化学療法の副作用に対する非腫瘍化細胞の感受性研究のモデルとなっています。 これらの現象は、共に医療用プロテアソーム阻害剤であるBortezomibに暴露させた神経芽腫細胞と密接に関係しています。このことはすでに、 Bortezomib投与した神経芽腫細胞においてアポトーシスが起こりやすいことからも示されていましたが、正確な分子メカニズムは明らかにされていま せんでした[1]。このことに加え、末梢神経障害はBortezomibを含む化学療法の主な副作用となっています[2]。

 様々なタイプの腫瘍において、Bortezomibに誘導される一般的なアポトーシスの分子パスウェイは、内因性(ミトコンドリア介 在性)、外因性(細胞死レセプター介在性)、Bcl-2タンパク質ファミリーおよびNF-κBとp53タンパク質機能により調節される小胞体ストレス介在 性のカスパーゼ活性化から構成されています[3]。その他のプロテアーゼ(リソソーム、カテプシン、カルパイン)については、Bortezomib誘導性 アポトーシスへの関連はあまり知られていません[4]。 またBortezomibが惹起する神経毒性については、微小管分解が可能性のあるメカニズムとして挙げられています[5]。

 プロテアソームは、分解とシグナル伝達の両プロセスに関連しています。プロテアソーム機能の欠損は、オートファジー関連シグナリング プロテアーゼとリソソーム内加水分解プロテアーゼのアップレギュレートにより、オートファジーにおける代償性のプロテアーゼを活性化します。これらのプロ セスは、神経芽細胞腫におけるBortezomib誘導性のアポトーシスと神経毒性の両方に役割を果たしている可能性があります。

 本研究で我々は、神経芽腫モデル細胞 (SHSY5Y)におけるプロテアーゼ、プロテアーゼインヒビターと活性化遺伝子の発現に対するBortezomibの影響を評価しました。我々はこの研 究のために、我々の遺伝子リストからロシュによって選ばれた遺伝子のパネルを使用しました。RealTime readyアッセイは、LightCycler®480マルチウェルプレート96の各ウェルに分注された形状で提供されました。また、Bortezomib投与への応答における遺伝子発現の小さな変化であっても、適切なノーマライゼーション戦略を用いることで同定することが可能であることを発見しました。

材料と方法

細胞培養と処理

 

ヒト神経芽腫細胞株SH-SY5Y (ATCC, CRL- 2266, 7-18 passage)は、15%非働化処理済FBS、1%非必須アミノ酸、0.3 g/l グルタミン、 1 U/ml ペニシリンと1μg/ml ストレプトマイシン添加 F12: MEM (1:1)mixture培地を用い、37℃ 5% CO2中で培養しました。細胞には、100 nM Bortezomibと、コントロールとしてCA-074Me (0.1と10μM)またはDMSO (0.01%)を10時間投与しました。

RNA抽出

 

RNAは、細胞2x106個からHigh Pure RNA Isolation Kit (Roche)を用い、最終液量50μlで抽出しました。
 核酸の収量と純度は、Nanodropスペクトロフォトメーター(Thermo Scientific)を用いて測定しました。
 本研究に使用するRNAサンプルは、最長2ヶ月まで-75℃で保存しました。

cDNA合成

 

cDNAは、2μg RNAよりTranscriptor First Strand cDNA Synthesis Kit (Roche)を用いて合成しました。
  変性ステップは一例を除き、ほとんどの実験で65℃ 10分で行いました。選択された84遺伝子の50%以上がpoly Aテールを有していなかったため、ランダムヘキサマーとオリゴdTプライマーのミックスをcDNA合成に用いました。16遺伝子のヌクレオチドシークエン スは4,000base以上だったため、cDNA合成は50℃ 60分、反応液量20μlを用い、Mastercycler(Eppendorf, Merck)を使用して行いました。
 cDNAは直ちにqPCRランに使用するか、最長5日間まで-20℃で保存しました。

qPCRラン

 

RealTime ready Protease Custom Panel (Roche) のqPCRは、LightCycler®480とLightCycler®480 Probes Master(Roche)を用い、10ng cDNA/RNA濃度 (フルアッセイには1μg cDNA, または0.2-1.6μg)を20 μl反応で行いました。
 反応条件は、95℃ 10分、95℃ 10秒, 60℃ 30秒,72℃ 1秒(シグナル取得)を45サイクル、40℃ 30秒の最終クーリングを行いました。

Cp値のノーマライゼーションと統計解析

 

相対Cp値のノーマライゼーションは、Vandesompeleらの方法によるGeNormソフトウェアを用いて行いました[6] (http://medgen.ugent.be/~jvdesomp/genorm/)。
  パネルに含まれる7個のハウスキーピング遺伝子と、パネルの全91遺伝子の安定性の順位づけは、7プレート(2xコントロール、2x CA-074Me 10μM、2x CA-074Me 0.1μM、1x Bortezomib 100nM)からの相対Cp値のデータベース上で実施しました。我々は最小ペアワイズ変動基準[6]を用い、プレートの全てで発現強度の幾何平均(または Cp値の算術平均)を算出することによって、ノーマライゼーションのための5個のハウスキーピング遺伝子(HG)と、7個の安定発現遺伝子(SG)を選択 しました。我々は、6枚のコントロールプレートについて遺伝子毎にHGまたはSDによりノーマライズしたCp値の平均と標準偏差(SD)をそれぞれ評価 し、Bortezomib投与サンプルのHGまたはSGによってノーマライズしたCp値が3x ±SDの外側値になるかどうかを判定しました。相関係数は、Spearman相関を用いて決定しました。

結果とディスカッション

qPCRアッセイの再現性と直線性

 

通常のサンプルあたり10ng cDNA/サンプルの反応がアッセイの直線性レンジに入っているかどうかテストするために、我々は単独のcDNA合成から、2ngと16ngのcDNA /サンプルでqPCRランを行いました。Spearman相関 (Cp of '16 ng/sample’= -3,108 + 1,013x Cp of '0,2 ng/sample’, 図1)による評価では優れた直線性を示しました。 4℃に2時間保持したcDNAサンプルでは再現性が低下しましたが、直線性は保たれていました(図1)。
 これらの結果に基づいて、我々は1μg cDNA/プレートを残りのテストに使用しました。2個の並行コントロールサンプルからのcDNAサンプルを用いた2テスト間でも良好な相関を得ることができました(図2a)。
 cDNA合成においてRNA変性ステップを省略したときも、5つのコントロールサンプルのランと比較して、著しい変化は見られませんでした(データ非掲載)。

ハウスキーピング遺伝子と安定発現遺伝子によるCp値のノーマライゼーション

 

qPCRデータのノーマライゼーションは、比較的少ない発現変化の評価に極めて重要です。
  材料と方法に記載したとおり、我々はGeNormソフトウェア[6]のアルゴリズムによるデータのノーマライゼーションに最適なハウスキーピング遺伝子と 安定発現遺伝子を決定するために、7枚のプレートの結果を用いました。我々は、神経芽腫細胞サンプルにおけるノーマライゼーションファクターを作成するた めに、5個のハウスキーピング遺伝子と、最も安定した発現パターンを持つ7個の遺伝子を選択しました。
 図3に、ノーマライゼーションに用いた遺 伝子と、7個の遺伝子の増幅産物の代表的なアガロースゲル電気泳動サンプルを示しました。コントロール細胞由来サンプルのランには6枚のプレートを使用 し、選択した遺伝子でノーマライズを行い、算術平均とΔCp値の標準偏差を求めました。注目すべきは、2つの異なるノーマライゼーションファクターを用い ることにより、6枚のコントロールプレートにおいてΔCp値のSDは相関しているにも関わらずこれらは互いに大きく異なっており、ノーマライゼーション ファクターの最適化の重要性が示唆されたことでした(図4)。

Bortezomib投与により誘導される遺伝子発現の変化

 

Bortezomib投与サンプルのノーマライズされたCp値は、コントロールサンプルのΔCp値と相関していました(図2b)。我々は、 Bortezomib投与によってアップまたはダウンレギュレートされる遺伝子の発現を検討するために、6枚のコントロールプレートの平均と Bortezomib投与プレートとのΔCp値の差が±3SDを上回ることを評価基準として用いました。我々は、2つの異なるノーマライゼーションファク ターを用いたとき、レギュレートされる遺伝子のグループが顕著に異なっていることを見出しました(表1)。
 これらの結果は、ノーマライゼーショ ンの役割をさらに強調するものでした(表1, イタリック表記)。遺伝子発現の緩やかな変化の評価にあたって、5個のハウスキーピング遺伝子によるノーマライゼーションの結果からは、たった1個のオー トファジー関連遺伝子のアップレギュレーションしか検知できませんでしたが、一方、7個の安定発現遺伝子によるノーマライゼーションでは全部で3個の遺伝 子が調節を受けていることがわかりました。
 しかしながら、調節を受けている遺伝子の大部分は、2通りのノーマライゼーションに共通したものでした。
 ΔCp値に顕著な変化がみられる代表的な遺伝子を図5に図示しています。

結論

 

UPLをベースとしたRealTime ready Protease Custom Panelは、遺伝子発現の緩やかな変化を調べる上で再現性の高いアッセイシステムです。しかしながら、ノーマライゼーションメソッドはこれらの変化の検 出に極めて重大な影響をおよぼすものです。我々はBortezomib投与後のプロテアーゼコンポーネントとその他候補の発現のアップレギュレーションを 発見しました。オートファジーはBortezomib処理によりアップレギュレートされることが予測されていましたが、しかしながら、リソソームのプロテ アーゼの多くはBortezomib暴露後にカテプシン DとL1を除き、ダウンレギュレートしていました。また、いくつかのカスパーゼ遺伝子(実行カスパーゼ)がBortezomibにより顕著にアップレギュ レートされることは予想外のことでした。
 Bortezomib投与後に調節を受ける多数の遺伝子は、神経芽腫細胞のアポトーシス応答とBortezomibに対する神経細胞の毒性応答の両者に寄与していることが予想されます。

図1:同一のcDNA合成サンプル由来アッセイの補正

図1:同一のcDNA合成サンプル由来アッセイの補正
SH-SY5Yコントロールサンプルより2μg のcDNAを調製しました。直線性のテストのために、0.2μg(2x)または1.6μg cDNAをRealTime ready Protease Custom Panelに分注しました。相関性はSpearman順位相関係数を用いて評価しました。0.2μg cDNAサンプルのうち1サンプルは4℃で2時間保持しました。相関直線の方程式:(ライトブルー): Cp of‘0.2μg cDNA-fresh’=0.654 + 0.9765 x Cp of‘0.2μg cDNA-refrigerated’ R=0.9937.
(ダークブルー): Cp of‘16 ng/sample’=-3.108 + 1.013x Cp of ’0.2 ng/sample’ R=0.9869.
相関直線の式と相関係数は、35以下の非ノーマライズCp値について決定しました。

図2:異なるcDNA合成サンプル由来アッセイの相関

図2:異なるcDNA合成サンプル由来アッセイの相関
10時間のBortezomib(100nM)またはコントロール(DMSO, 0.01%)に暴露したSH-SY5Yサンプルから、2μgのcDNAを調製し、1μgのcDNAをアッセイプレートに分注しました。(a) コントロール1(cont1)のΔCp値はコントロール2(cont2)と相関しました。(b) コントロール1(cont1)のΔCp値はBortezomib暴露サンプルと相関しました。相関はSpearman相関を用いて評価しました。 相関直線の方程式:ΔCp of‘1 μg cDNA-cont1’= 0.054 + 1.017x ΔCp of‘1 μg cDNA-cont2’, R=0.9976 ; ΔCp of‘1μg cDNA-cont1’= 0.790 + 0.914x ΔCp of‘1μg cDNA-Bortezomib’, R=0.9417. 相関直線の式と相関係数は、35以下の非ノーマライズCp値について決定しました。

図3:ノーマライゼーションに用いた遺伝子

図3:ノーマライゼーションに用いた遺伝子
(a)ノーマライゼーションファクター作成のために、GeNormソフトウェアを用いて5個のハウスキーピング遺伝子と7個の安定発現遺伝子を選択しました。
(b)最も安定した7個の遺伝子の代表的なアガロースゲル電気泳動サンプル

図4:レプリケートアッセイのCp値のSDに影響を与えるノーマライゼーション遺伝子の選択

図4:レプリケートアッセイのCp値のSDに影響を与えるノーマライゼーション遺伝子の選択
2個の並行なサンプル由来のSH-SY5YコントロールcDNA (0.2-1.6μg)を6枚のアッセイプレートに分注しました。Cp値は5個のハウスキーピング遺伝子(HG)または7個の安定発現遺伝子(SG)を用 いてノーマライズされています。6枚のプレートについて平均値と標準偏差(SD)を算出しました。HGまたはSGにノーマライゼーションのために、ΔCp のSDについて相関を図示しました。SD1以下の遺伝子が表示されています。

表1:神経芽腫細胞株SH-SY5YにおいてBortezomib投与により顕著に発現変化した遺伝子のグループ
(SG: 7個の最も安定して発現している遺伝子によりノーマライズされたもの; HG: 5個のハウスキーピング遺伝子によりノーマライズされたもの)。

SG normalized HG normalized
CASP6 PSEN2   CTSL2 MBTPS1
CASP4 BIRC6   CTSL1  
CASP9 TNFRSF21   PMSB10  
MALT1 BCL2L11   PMSB8  
ATG4A BACE1   PARL  
ATG4D USP7   PARK7  
CTSD LGMN CASP3 ADAM10 BIRC3
CTSE CTSA CASP7 ADAM19 BIRC5
CTSF PRCP PMSMB6 ADAM20 TIMP1
CTSS PRCP PMSMB6 ADAM20 TIMP1
CTSS   PMSMB7 ADAM21 HSPA1A
CTSO   ATG4C   TNFRSF10B
CTSB       BBC3
CTSC        
図5:Bortezomibにより発現変化が誘導された代表的な遺伝子

図5:Bortezomibにより発現変化が誘導された代表的な遺伝子
Bortezomib投与サンプルとコントロールの6アッセイの平均においてCp値の差を図示しました。
Cp値は5個のハウスキーピング遺伝子でノーマライズしました。バーはSDを示しています(n=6)。

リファレンス

  1. Brignole C et al. (2006) J Natl Cancer Inst 98:1142-1157
  2. Argyriou AA (2008) Blood 112:1593-1599
  3. Vlahakis SR, Badley AD (2006) Curr Opin Clin Nutr Metab Care 9:42-47
  4. Yeung BH et al. (2006) J Biol Chem 281:11923-11932
  5. Poruchynsky MS et al. (2008) Cell Cycle 7:940-949
  6. Vandesompele J et al. (2002) Genome Biol 18:RESEA RCH 0034

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RealTime ready Custom Panel ,(96ウェル/384ウェル) ご照会 ご照会 ご照会

RealTime ready Custom Panel製品についての詳細な情報は、www.realtimeready.roche.com.をご覧ください。

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製品名 製品番号 包装単位 希望価格
High Pure RNA Isolation Kit 1 828 665 50回 ←製品番号をクリック
Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit 4 379 012 50回 ←製品番号をクリック
4 896 866 100回 ←製品番号をクリック
4 897 030 200回 ←製品番号をクリック
LightCycler® 480Probes Master 4 707 494 5×1ml ←製品番号をクリック
4 887 301 10×5ml ←製品番号をクリック
4 902 343 1×50ml ←製品番号をクリック
BIOCHEMICA2009 NUMBER4 (No117)

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