アレイキャプチャーを用いたリシークエンスからマウスの4つの新規変異が発見されました

Microarray Corner

参照文献: D'Ascenzo M et al. (2009) Mamm Genome 20:424-436

イントロダクション

 

Kitアリル系列は、 今日まで幹細胞の増殖、転移、発生におけるKITレセプター機能とその多面的な役割を理解するのに多大な貢献をしてきた研究用マウスに典型的なアリル系列 です。さらに、このアリル系列は稀に無表現型アリルや無形質アリルになるヒト疾患のより良いモデルをしばしば提供します。

 表現型に注目してその機能を調べるアプローチのような正の遺伝学は、依然としてマウスのアリル多様体解析のために主要なソースです。しかしながら、観察される表現型(例:白斑形成)と原因となる遺伝型(例:“W”) 間の関連付けのギャップは、自然発生または変異誘導されたマウスの変異体を広く利用することを制限しています。既存のポジショナルクローニングや変異検出 アプローチの代わりとして、シークエンスキャプチャーと次世代シークエンステクノロジーはゲノムの一部分を迅速にシークエンスするために使用可能です。マ ウスでの変異検出の試みへのこれら技術の適用は、高解像度な遺伝地図作成、ロングレンジPCR、個々のPCR増幅産物のシークエンスをしなくてすむことに よって、変異同定に必要な時間とリソースをかなり短縮できる可能性があります。

 アレイエンリッチメントと次世代シークエンステクノロジーが変異を迅速に同定できるという概念の証明として、D’Ascenzo等は典型的なKitアリル系列において新規アリルを同定するために、これらの新しいテクノロジーを利用しました。

材料と方法

使用株の情報

 

リシークエンスのターゲットとしてJackson研究所(1967年~1988年)で行った自然発生的な変異である5つのKitアリルを選びました(表 1)。その内の1つとして、KitW-41J(W-41J)は既知のKit変異であり、そのV831M変異をポジティブコントロールとして使用しました。 他に選択した4つのKit変異株は以前に非相補性試験で示されたもので、特定の分子病変は知られておりません。KitアリルのKitW-73J(W- 73J)は非リファレンス株(DBA/2J)で起きる変異として今回の実験に加えました。他の3つのアリル、KitW-39J(W39J)、KitW- 40J(W-40J)、KitW-20J(W-20J)は以下に示すように報告された表現型の重症度をもとに選択しました。W-39Jはもっとも軽度なア リルで生存可能なアリルです。W-40Jはもっとも重度なアリルで早期段階での致死性を示し、ヘテロ接合体で配偶子形成することで有害な効果を生みだしま す。

シークエンスキャプチャーアレイとシークエンス

 

c-Kit座位をターゲットにしたカスタムタイリング385KシークエンスキャプチャーアレイがRoche NimbleGenによりデザイン、製造されました。アレイは、キャプチャープローブ中の繰り返し配列を最小にするようにNimbleGen標準の15- mer毎の頻度によるマスク処理を行ってデザインされました。プローブ間隔、タイリングの重複、プローブ長はRoche NimbleGenのアルゴリズムを使用して決定しました。

 それぞれの5つの株からのDNAサンプルは処理され、Roche NimbleGenに送る前に、ユニークで、ランダムなサンプル番号が割り当てられました。5つのKit株のDNAサンプルは23年間保存されていたため 分解しているものやシークエンス品質に満たないものがあると実験の進捗上不都合を生じるため、市販のマウスゲノムDNA(mouse genomic DNA: msgDNA)を実験に含めました。

 シークエンスキャプチャーのライブラリーは、総てのサンプルにおいてアレイキャプチャーを介したアプローチを使用して目的の座位を濃 縮し、構築されました(図1)。興味のある領域(色を付けたDNAセグメント)を指定し、Kit座位全体に渡りタイリングしたアレイを製造しました。各 キャプチャーライブラリーはアレイにハイブリダイゼーションし、洗浄、高温での溶出、付加されたアダプターによる増幅を行いました。そして濃縮されたライ ブラリーは次のライブラリー構築とシークエンスのステップに割り当てられました。

 濃縮度合いを評価するために、各サンプルのマッピングデータは、キャプチャーの目的領域(例:Kit座位)内でマッピングされたリード数をmm9に対してマッピングしたリード総計の割合として定量的(例:目標%)に評価しました。

454シークエンスシステム

 

アガロースゲル電 気泳動による評価の後に、増幅されたキャプチャーライブラリーは、製造元である454ライフサイエンスシークエンスセンターで推奨されている条件である、 ショットガンDNAライブラリー構成キットと低分子量DNA(nebulization無し)プロトコルを使用し454ゲノムシークエンスFLXで使用す るシークエンス用ライブラリーに処理されました。各キャプチャーしたサンプルライブラリーは2-region PicoTiterPlate Deviceの領域(2レーン)総てを使用しシークエンスするか、W-39の場合は16-reagion PicoTiterPlate Deviceの(16レーン中)8レーンを使用し2ランに渡ってシークエンスしました。総ての出力された配列データは、アセンブルと解析のために NimbleGenと454 Life Sciencesのバイオインフォマティクスグループに送られました。

 シークエンスとデータ分析は、総合的協力関係の一部としてロシュNimbleGen(RNG)とロシュ454Life Sciences(454)の両方のバイオインフォマティクスグループによって個々に実行されました。

結果と考察

 

D’Asenzo等はアレイ キャプチャーを介したリシークエンスアプローチからKit遺伝子中の1つの既知(ポジティブコントロール)と4つのそれまでわかっていなかった変異の同定 に成功し、また同様に8個中7個の既知DBA/2J SNPと新しい1個のSNPも同定することに成功しました。各サンプルについて1個のコードされたSNPと小さな欠失が検出され個々に評価されました。重 要なことはポジティブコントロールの変異も正確に確認されていることです。そのうえ、変異の性質、KITタンパク質内での位置、多量の遺伝的データ(以前 に同定されたKitアリルと非相補的であることも含む)は、W-20J、W-39J、W-40J、W-37Jで発見されたコードされている多様体が原因変 異であるとの結論を裏付けました。

 W-39J変異はC57BL/6で自然発生的に生じたものでした。;それゆえ、リファレンス(C57BL/6J)からのW-39J変 異に加えて多様体を確認、発見することがより興味深いものになりました。系統図データからW39J変異が1970年より前に生じ、そして1985年に DNAが記録されるまで生殖隔離された研究コロニーの中で維持されてきたことが示されました。この追加された新規変異はこの研究で使用された他のWアリル 中、Jackson研究所において育種されている同様のC57BL/6Jコロニーで自然発生的に生ずる総てのWアリルには存在しませんでした。この研究 は、W-39JがこのSNPを保持するようになる前(W-20J)や後(W-40J、W-41J)に生じたアリルでもなく、また、W-39Jアリルが元も と維持されている株でもなかったことを確認しました。従って、この多様性はW-39J変異の後にその原因性W-39J変異への近傍に生じたものであり、密 な連鎖の結果として続く世代(~62世代)にSNPが維持されたと考えられます。

 確認されたKit内の非相補的なSNPsと欠失の位置の注意深い精査により、W-41Jポジティブコントロールを含む、4種の多様体 は、重要なキナーゼ機能ドメイン内にあることが明らかになりました(図2)。5つの変異の内3つはキナーゼのリン酸基転移活性化に重要な活性化ループ中に ありました。既知変異であるW-41Jは、活性化部位内のリン酸基供与体を調整するために重要なATP結合ループ内に生じています。W-20Jアリルを生 ずる株は、普遍的に保存される領域 [グリシンがグルタミン酸残基(G595E)に置き代えるATP結合ループ内のGXGXXGK(N20)K内にある50アンカーG]内に変異を持っていま した。W-73Jアリルは623部位をメチオニンの代わりにイソロイシンに変換します。W-39JアリルはGXGXXGK(N20)K、ATP結合ループ のちょうど外側に隣接して並んでいます。W-40J内で同定された5-bp欠失アリルは、結果として2つの非相補的な置換(R186CとA188S)を生 じ、フレームシフトを遺伝子の翻訳領域内部において創出し、部位190で未成熟なSTOPコドンを起こしていました。これは完全なドメインを形成しないで 標準の長さの1/3未満に切断されたポリペプチドへの転写そして/または翻訳であるため、nonsense mediated decayによって細胞内で破壊されることが予想されます。

 著者等によると、シークエンスキャプチャーと次世代シークエンステクノロジーで示された研究成果は、マウスゲノムの選択領域を迅速に シークエンスできること、並びにこれら領域内のヘテロ接合の変化を高い正確性で予想できることを示しました。また、ポジティブとして予測される正確性は 86%、ネガティブとして予測される正確性はほぼ100%近くを示し、25%の多様体アリルのカットオフ頻度で真の多様体を捕らえることができました。更 に、候補変異の検証は、カバレッジとフランキング配列の複雑さによってさらに優先順位付けが可能となりました。研究者等は25%以上のアリル比の閾値と 20回以上のリードの冗長度という指標が、小さなSNPの集合体の検証の管理を行うのに十分な特異性を保持しつつ、鋭敏に真のヘテロ接合多様体を検出する のに十分であると結論付けました。

 実用的観点から最も重要であるのは、マウスゲノムにおける変異発見のための時間と費用を節約できる可能性でした。最短2週間で、合計 340Mb以上の長さが遺伝学的に同定され、5つの株から約160-kbゲノム領域が215リードのカバレッジの最大平均冗長度でキャプチャーされ、シー クエンスされました。

要約

 

5つの非相補的なKit変異体(1つ は既知アリル、4つは未知のアリル)由来の、規定Kit座位(~200kb)からのアリル系列をシークエンスするために、アレイタイプのシークエンスキャ プチャーとパイロシークエンスを使用することで、D’Ascenzo等は各アリルから非相補的にコードされた原因変異を発見し検証しました。これらデータ は新規テクノロジーが変異を効率的に発見することに有効であることを示した初めての文献かつ検証結果となりました。重要なのは、これらの結果が、常に代を 重ねている変異マウス系統で原因変異の効率的検出法を構築するためのフレームワークを与えてくれるということです。ここでは標準的な方法を示しましたが、 最新のシークエンスキャプチャーの方法(例:whole-exome arrays またはsolution-based法)と、次世代シークエンステクノロジーが組合わさることで、マウスの表現型と遺伝型間のギャップを埋めることが大い に期待できます。

表1:研究に用いたKitアリル

Allele Heterozygous/homozygous phenotypes ference Background DNA sample year
W-39J Dilute coat, mild anemia/viable Geissler et al. (1981) C57BL/6J 1985
W-40J Spotting/lethal Geissler et al. (1981) C57BL/6J 1986
W-73J Spotting/lethal Sweet et al. (1990) B6;D2, N8 1990
W-20J Spotting/unknown Geissler et al. (1981) C57BL/6J 1986
W-41J Spotting, mild anemia/lethal Geissler et al. (1981) C57BL/6J 1992
Shown here are the allele name, phenotype, reference for phenotype data, genetic background of origin, and the year of DNA sample collection.
図1:シークエンスキャプチャーワークフロー

図1:シークエンスキャプチャーワークフロー
サンプルから採取したDNAは増幅させるために断片化、末端の平滑化、アダプター配列の付加を行います。サンプルを目的領域(色付けしたセグメント)をデ ザインしたアレイにハイブリダイズします。アレイの洗浄:キャプチャーされた分子を溶出し増幅します。増幅産物はライブラリーへと構築され次世代シークエ ンサーにかけられます。ここではゲノムシークエンサーFLXシステムを使用しました。

図2:新たに発見された変異の検証された領域はKITの重要なドメインに影響します。

図2:新たに発見された変異の検証された領域はKITの重要なドメインに影響します。
KIT レセプターの細胞外リガンド結合ドメインをオレンジ色のボックス、細胞内キナーゼドメインを緑色のボックスで示しています。各変異箇所はタンパク質の配列 上で各々色を変えて表示しています(黄色のマークで赤色のアミノ酸残基)。高度に保存されているアミノ酸残基は青色のマークで表示しています。

BIOCHEMICA2009 NUMBER4 (No117)

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