アポトーシスと細胞周期制御の関連遺伝子のqPCRによる同定

Gene Expression Corner

Jitao Zhang, Ute Ernst, Anja Irsigler, Stefan Wiemann, and Ulrich Tschulena*
Deutsches Krebsforschungszentrum, Division Molecular Genome Analysis, Heidelberg, Germany
*Corresponding author: u.tschulena@dkfz-heidelberg.de

イントロダクション

 

siRNA(small interfering RNA)の細胞内導入によるターゲット遺伝子サイレンシングを含む系統的なハイスループット・ゲノムスクリーニングは、生物学的な機能解析における極めて パワフルなツールとなりました。このようなスクリーニング方法では一般的に、膨大な量の“Hit”(潜在的に研究対象の機能をその役割として持つ遺伝子) を得ることができます。しかしながら、true-positive(真陽性)とfalse-positive(偽陽性)のHitを区別し、解析条件により 遺伝子が作用する機序を精査して評価するのは難しいことです。
 これらの多くのアッセイでは、表現型(phenotype)や機能アッセイの計測 値を用いて、アポトーシスや細胞周期における変化を示しています。しかし、キーとなっているこれらの細胞内プロセスの変化は、異なるパスウェイの広範囲に わたって引き起こされています。遺伝子ノックダウンがどのようにアポトーシスや細胞周期の変化を引き起こすか、という事象についての理解を深めるために、 機能的遺伝子ネットワークを明らかにし、関連するパスウェイを解明する上で、これらのプロセスにかかわる、その他の遺伝子の発現解析は非常に有用です。

 アポトーシスと細胞周期を調節している遺伝子を同定するために、我々はHLR-CHOP細胞のsiRNAスクリーニングを行いまし た。両スクリーニングにおいて、siRNAのトランスフェクションにより複数の遺伝子がダウンレギュレートされていました。これらの細胞周期の解析とアポ トーシスアッセイにおけるcaspase-3の活性化に与える影響は、7-AAD染色後のDNA量のフローサイトメトリー測定により解析しました。
  細胞周期の解析では、RNAiによるDONSONとGDF3のダウンレギュレーションにより、細胞周期のG1期でブロックが引き起こされていました。これ ら2つの遺伝子のより深い細胞周期制御への関連を明らかにするために、我々は、DONSONとGDF3ノックダウン後の91の細胞周期関連の内在性遺伝子 発現をqRT-PCRを用いて解析しました。この目的のために、我々はRealTime ready Cell Cycle Regulation PanelとLightCycler® 480 Instrumentを使用しました。Caspase-3の活性化は、特異抗体とフローサイトメトリーで測定しました。このアッセイでは、 C24ORF17とBARD1のダウンレギュレートに伴って、caspase-3活性化が増大することがわかりました。本研究ではまた、アポトーシス誘導 にエンコードされているタンパク質の役割を同定するため、C24ORF17とBARD1がRNAiによってダウンレギュレートされた時にアポトーシス制御 に関連する378遺伝子へ及ぼす影響を、RealTime ready Apoptosis Panel、384(beta version)とLightCycler® 480 Instrumentを用いたqRT-PCRにて解析しました。

 DONSONおよびGDF3遺伝子は、既にCell Cycle Regulation Panelで解析が行われていますが、19のハウスキーピング遺伝子を搭載したRealTime ready Reference Gene Panelを用いて、さらに潜在的な影響を解析し、ハウスキーピング遺伝子の変動のノーマライズを行いました。さらに、全てのパネルについて、これらの遺 伝子に対するsiRNAをトランスフェクションした後の内在性遺伝子発現の変動は、GFPに対するsiRNAをトランスフェクションしたHeLa細胞をコ ントロールとして比較しました。

材料と方法

細胞培養

 

HLR-CHOP細胞(Stratagene)は、1% L-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、10% FBS(GIBCO-BRL)、ハイグロマイシン(100 μg/ml)、G418(ジェネティシン、250 μg/ml)を添加したDMEM(GIBCO-BRL)中で、37℃、5% CO2条件下で培養しました。
 細胞は、40nM siRNAでトランスフェクションを行い、トランスフェクションの48時間後にTNF-α(33 ng/ml)刺激を行いました。

RNA抽出と逆転写

 

Total RNAは、1×107 HLR-CHOP細胞より、RNeasy Kitを用いて抽出し、独立して2回行いました(2回の生物学的レプリケート)。
 1本鎖cDNA合成は、各700 ngのtotal RNAと、オリゴ(dT)18とランダムヘキサマーを混合したプライマーを用いて、Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kitを使用しました。

qRT-PCR

 

qRT-PCRは、RealTime readyパネルとLightCycler® 480 Instrument、LightCycler® 480 Probes Masterを用いて、96-wellフォーマットでは20 μl反応液量、384-wellフォーマットでは10 μl反応液量で行いました。cDNA/RNA濃度は、96-wellフォーマットでは10 ng/反応、384-wellフォーマットでは4 ng/反応を用いました。LightCycler® 480 Instrumentでの反応は、95℃/10分の後、95℃/10秒、60℃/30秒、72℃/1秒を45サイクル実施し、続いて40℃/30秒のcoolingを行いました。

結果と考察

 

初めに、我々はHLR- CHOP細胞でGDF3とDONSONのノックダウンが19のハウスキーピング遺伝子へ与える影響について検証を行いました。ハウスキーピング遺伝子の発 現解析の結果を、コントロールのGFPをターゲットとするsiRNAをトランスフェクションした細胞の結果と比較しました。
 予想の通り、コント ロールとGDF3ノックダウンを比較したときに、多くのハウスキーピング遺伝子の発現に、顕著な影響はありませんでした(図1)。しかしながら、 beta-globinのようないくつかのハウスキーピング遺伝子の発現は、ノックダウンによって強く調節を受けていました。この結果は、実験の際にハウ スキーピング遺伝子でノーマライズを行う前に、どのハウスキーピング遺伝子がノックダウンに影響されているかどうかの解析が重要であることを示していま す。 そのため、我々は常にRealTime ready Focus Panelに搭載された全てのリファレンス遺伝子の平均を用いてノーマライズを行うことにしました。

 実験結果の再現性を検証するため、我々は全3種類のRealTime ready Focus Panel(apoptosis、cell cycleと housekeeping)について、2つの生物学的レプリケートを比較して定量結果を解析しました。
 全3種類のパネルにおいて、1回目と2回目のレプリケートはほぼ完全な相関を示しました(図2)。
 続いて、我々は異なる発現レベルにわたり、2つの生物学的レプリケートの間での発現の安定性を解析しました。これにより、異なる発現レベルにおけるアッセイの変動の目安としました。
  最終的に、各2つの生物学的レプリケート(それぞれBARD1、C19ORF24、GDF3またはDONSONをターゲットとした各siRNAの処理サン プル)はリファレンスサンプル(siGFPターゲット)と同じようにして、ハウスキーピング遺伝子パネルでノーマライズされ、各個の相対発現レベルを算出 しました(図3)。これは全3種類のパネル(トータルで947のduplicate測定)を交差した解析となります。
 これらの結果からは、0.1から2.5倍の発現レンジで変動係数が約10%と非常に安定していることが示唆されました。

 次に、我々は、GDF3またはDONSONターゲットのsiRNAをトランスフェクションしたHLR-CHOP細胞でCell Cycle Regulation Panelを用いた94の遺伝子発現の定量を行い、コントロールのsiGFP(GFPをターゲットとしたsiRNA)トランスフェクション細胞から得られ た結果と比較しました。7-AAD処理による細胞周期アッセイにおいては、GDF3、DONSONどちらのsiRNAでも影響が見られていました。そのた め我々はまた、Cell Cycle Panelの解析でもいくつかの遺伝子で発現の変化が見られるのではないかと予測しました。
 実際に、 GDF3とDONSONをターゲットとしたsiRNAトランスフェクション細胞とsiGFPコントロール細胞の比較では、約50%以上の発現変動が25遺 伝子で見られました(図4)。Cyclin D2ではCell Cycle Regulation Panel(beta version)の94遺伝子アッセイにおいて、siGFPコントロール細胞と比較した時に、それぞれ、GDF3ノックダウンでは70%、DONSON ノックダウンでは85%のダウンレギュレートがされていました(図4)。Cyclin E2は、DONSONターゲットsiRNA処理の場合のみ、80%ダウンレギュレートされていました。GDF3 siRNAトランスフェクション細胞においては、Cyclin E2はわずかしか変動がありませんでした。
 同じサンプルでアップレギュレートされた遺伝子を解析したところ、両者において最も強くアップレギュレーションが見られた遺伝子はp21、すなわち、cyclin dependent kinase inhibitor 1a遺伝子でした。
 p21は、それぞれsiGFPコントロール細胞と比較したときに、GDF3 siRNAトランスフェクション細胞では1.81倍、DONSON siRNAトランスフェクション細胞では3.31倍のアップレギュレーションが見られました(図4)。

 上述のように、GDF3とDONSONのノックダウンは、Cyclin D2ダウンレギュレーションと、p21アップレギュレーションを誘導しました。Cyclin D2は、CDK4またはCDK6の調節サブユニットと複合体を形成することが知られています[1]。この複合体の活性は、細胞周期のG1/S期移行に必要 であることが知られています[1]。p21の誘導は主に細胞周期の停止を引き起こすことが言われています。p21はcdk4/cdk6とD-cyclin の間の相互作用を安定化すると言われていますが、その結果、不活性型複合体の形成を促進し細胞周期進行を負に制御しています[2]。これらから、GDF3 とDONSONノックダウンが、p21のアップレギュレーションとcyclin D2のダウンレギュレーションを惹起することで、G1期での停止が説明されます。

 C24ORF17とBARD1がダウンレギュレーションされることでcaspase-3活性化が誘導されますが、これらに関して我々は、RealTime ready Apoptosis Panel, 384(beta-version)を用いた378遺伝子の解析を行いました。どちらのsiRNA処理でも、siGFPコントロール細胞と比較した結果、 125遺伝子で50%以上の発現レベルの変動が見られました。興味深いことに、2遺伝子(C24ORF17とBARD1)のノックダウンでは多くの類似し た効果が生じましたが、我々はさらに明確に異なってアップ、またはダウンレギュレートされている遺伝子をいくつか見つけることができました。
 一 例として、C24ORF17またはBARD1のターゲットsiRNAをトランスフェクションしたサンプルでは、IL-10、BIRC8、Caspase1 およびCaspase10にsiGFPコントロール細胞と比較して強いダウンレギュレーションが見られましたが、その一方、TIMP3、ATF5、 BAG3とBTKには著しいアップレギュレーションが見られました(図5)。

 TNFRSF11Bをコードする他のmRNAは、siC24ORF19(C24ORF19をターゲットとするsiRNA)トランス フェクション細胞でのみ強いアップレギュレーションが見られましたが、siBARD1(BARD1をターゲットとするsiRNA)トランスフェクション細 胞では見られませんでした。一方、IL-18はsiBARD1トランスフェクション細胞でのみ顕著にアップレギュレートされましたが、 siC24ORF19では見られませんでした。
 対照的に、DAPK1にはC24ORF17ターゲットsiRNAトランスフェクション細胞では強 いダウンレギュレーションが、BARD1ターゲットsiRNAトランスフェクション細胞では、弱いダウンレギュレートが見られましたが、CD38は siBARD1トランスフェクション細胞でのみ、強いダウンレギュレーションが見られました。

 要約すると、RealTime ready Apoptosis Panelを用いた検証では、2つの遺伝子に影響を受ける遺伝子の異なるパターンを明らかにすることができました。これらの遺伝子の、アポトーシスにおけるアップまたはダウンレギュレーションの関連性についてはこれからの解明が待たれます。

結論

 

全3種類の、RealTime ready Focus Panel(Reference Gene、Cell Cycle Regulationおよび Apoptosis)測定では、異なるレンジの発現に関して高い再現性で良いパフォーマンスが得られました。全てのパネルにわたる全ての生物学的レプリ ケートにおいて、98%以上でほぼ同等のCt値が測定できました。我々の実験から、これらのパネルが細胞周期やアポトーシスの関連遺伝子とハウスキーピン グ遺伝子の遺伝子発現の定量解析のために効率的なツールであることが示されました。アポトーシスと細胞周期のパネルに関しては、内部標準として用いられる 異なるハウスキーピング遺伝子が含まれるため、2サンプルの間でも発現の差異をノーマライズすることが容易でした。また、特定のサンプルにおいてアポトー シスや細胞周期に関連した遺伝子がどのように変動するかについて、非常に有益で信頼性の高いデータを出すことができました。本製品は、実験の条件が細胞周 期やアポトーシスにどのような影響を与えるかに関して、よりよい理解をもたらすツールとなっています。

図1:ハウスキーピング遺伝子の発現レベル変化

図1:ハウスキーピング遺伝子の発現レベル変化
Reference Gene Panelで選択されたハウスキーピング遺伝子発現の倍数変化について示しています。

図2: 2つの生物学的レプリケートの相関
図2: 2つの生物学的レプリケートの相関
図2: 2つの生物学的レプリケートの相関

図2: 2つの生物学的レプリケートの相関
プロットは、(a)Reference Gene Panel、(b)Cell Cycle Regulation Panel、および(c)Apoptosis Panelにおける各サンプルの第1、第2レプリケート間の相関を示しています。

図3:異なる発現レベルにおける生物学的レプリケートの変動

図3:異なる発現レベルにおける生物学的レプリケートの変動
このプロットは、2つのレプリケートの間で測定された相対定量レベルにおける安定度と分散のレンジを、変動係数(CV)で図示しています。
相対発現レベルは、I=C*2-ΔΔCt(Ctはサイクル数、今回はC=1;PCR効率100%と定義された定 数)によって計算しました。2つの生物学的レプリケートから算出したCt値は、ddCt法による相対発現レベルの算出のためにハウスキーピング遺伝子パネ ル、リファレンスサンプルによりノーマライズしました。
リファレンスサンプルとハウスキーピング遺伝子のサンプル検出ペアを除き、このボックスプロットのために947の相対発現レベルと各標準偏差のデータを収集しました。
これらの947データは、それらの相対発現レベルから17のサブグループ(X軸の0.2-1.8)に分割し、各サブグループのCVはボックス内に表示しま した。(各グループは相対発現レベルの増加の幅が0.1のレンジで、0.2は[0.2, 0.3]...を表しています。)このプロットでは、0.2から1.8の相対発現レベルにおいては、その中央値から10%という安定したCVとなっている ことが示されています。

図4:細胞周期関連遺伝子の発現レベル変化

図4:細胞周期関連遺伝子の発現レベル変化
RealTime ready Cell Cycle Regulation Panelでテストされた遺伝子(cyclinとcyclin-dependent kinase)の発現レベルを示します。

図5:アポトーシス遺伝子の発現レベル変化

図5:アポトーシス遺伝子の発現レベル変化
Apoptosis Panelでテストした遺伝子の発現レベル変化を示します。

リファレンス

  1. Ranade, K. et al (1995) Nat Genet, 10, 114-116.
  2. Gartel, A.L. et al (2005) Cancer Res, 65, 3980-3985.

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製品名 製品番号 包装単位 希望価格
LightCycler® 480インスツルメント II 5 015 278 1台(96ウェル) ご照会
5 015 243 1台(384ウェル) ご照会
LightCycler® 480 Probes Master 4 707 494 5×1 ml(2×conc.) ←製品番号をクリック
4 887 301 10×5 ml(2×conc.) ←製品番号をクリック
4 902 343 1×50 ml(2×conc.) ←製品番号をクリック
Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit 4 379 012 1キット(50回反応) ←製品番号をクリック
4 896 866 1キット(100回反応) ←製品番号をクリック
4 897 030 1キット(200回反応) ←製品番号をクリック
RealTime ready Human Reference Gene Panel 5 339 545 2×96ウェルプレート ←製品番号をクリック
5 467 675 2×384ウェルプレート ←製品番号をクリック
RealTime ready Human Nuclear Receptor Panel 5 339 332 2×96ウェルプレート ←製品番号をクリック
5 467 691 2×384ウェルプレート ←製品番号をクリック
RealTime ready Human Cell Cycle Regulation Panel 5 339 359 2×96ウェルプレート ←製品番号をクリック
5 467 683 2×384ウェルプレート ←製品番号をクリック
RealTime ready Human ABC Transporter Panel 5 339 324 2×96ウェルプレート ←製品番号をクリック
5 467 713 2×384ウェルプレート ←製品番号をクリック
RealTime ready Human GPCR Panel 5 353 068 2×96ウェルプレート ←製品番号をクリック
5 467 705 2×384ウェルプレート ←製品番号をクリック
RealTime ready Human Apoptosis Panel 5 392 063 2×96ウェルプレート ←製品番号をクリック
5 339 316 2×384ウェルプレート ←製品番号をクリック
BIOCHEMICA2009 NUMBER2 (No115)

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