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参照文献:Rakyan VK et al. (2008) Genome Res 18:1518-1529
mPod(methylation profiles of DNA:DNAメチル化プロファイル)とは、13種類の正常体細胞組織、胎盤、精子と不死化細胞株のゲノムワイドなDNAメチル化リファレンスプロファイ ルを、Ensemble ゲノムブラウザに組み込まれた可視化ツールおよび免疫沈降に基づくDNAメチル化プロファイルを解析するアルゴリズムとを用いて統合した新規リソースで す。本稿ではmPodを、組織特異的メチル化部位の様子を幅広くゲノム全体に渡って識別するために使用しました。
DNAメチル化(エピジェネティックな哺乳類DNAの修飾)は、転写制御、クロモソーム安定性、ゲノムインプリンティング、X染色体 不活化に重要な役割を担っています。しかしながら、組織特異的DNAメチル化のゲノム分布、非プロモーターCpG アイランド(CpG islands: CpGIs(高密度CpG配列))における組織特異的メチル化の役割など、正常組織特異的なゲノムファンクションに関わる役割はまだよく理解されておら ず、その理解のためには、網羅的ゲノムワイドなDNAメチル化プロファイリングが役立つと考えられます。マイクロアレイとメチル化DNA免疫沈降 (MeDIP:Methylated DNA immunoprecipitation)を組み合わせる手法は、網羅的かつゲノムワイドにDNAメチル化プロファイリングを行う上での強力なアプローチ 手段です。Rakyan VK等は、ヒトゲノム上にある既知の全プロモーターとCpGIsを網羅するカスタム高密度アレイをデザインし、13種類の正常体細胞系組織、胎盤、精子、 不死化細胞株に対して数回実験を繰り返したデータから51からなるリファレンス・ヒトゲノムワイドDNAメチル化プロファイルを作成しました。この mPodと呼ばれる新規リソースは総ての生物種におけるDNAメチル化に関して最大限かつ広範に利用可能なデータセットです。
具体的には、以下の手順で実験は行われています。まず、ゲノムDNAを断片化し、末端平滑化した後、アダプターライゲーションを行い ました。次に、メチル化CpGモノクローナル抗体を使用してMeDIPを行ってメチル化DNAを精製した後、LM-PCR(Ligation- mediated PCR)によってDNA増幅させたサンプルを回収し、NimbleGenメチル化アレイ(382,178プローブ/アレイ、50bpプロー ブ、~100bp密度タイリング)上でのハイブリダイゼーションを行いました。ハイブリダイゼーション後、データは新しく開発された可視化ツールを使用す ることによって"Ensemble genome browser"に統合され、さらには、免疫沈降を介したDNAメチル化プロファイルによってメチル化レベルを絶対値として推定することができる、新規バ イオインフォマティックス・アルゴリズム(Batman:Bayesian Tool for Methylation Analysis,メチル化解析用ベイズツール)によって解析され、実際のメチル化状態が決定されました(図1)。これは、MeDIP濃縮はゲノム上で多 様性に富むメチル化シトシン密度に依存しているため、MeDIPデータから直接メチル化の絶対値を推定することができないからです。そのため、 Rakyan VK等は、Batmanと呼ぶアルゴリズムを新規構築し、CpGジヌクレオチドに対するMeDIPシグナルを割り出したのです。Batmanはより高密度 のCpGを含む塩基配列がより強くMeDIP濃縮されるという結果を修正し、絶対的メチル化レベルの算出を可能にしました。また、Batman解析された データは、Ensemble genome browserで可視化されるため、ゲノムブラウザーに組み込まれた初めてのメチル化データセットともなっています。
ゲノム上に散在するCpG配列の大部分はメチル化されていますが、転写活性化されている遺伝子プロモーター(重要な発現制御要素)の CpGIsは、一般的にはメチル化されておらず、既知遺伝子のおおよそ60%がその5'末端にCpGIsを保有しています。本研究では、代表的体細胞では 解析領域とした500bpにおいて、全CpGIsの90%ほどが低レベルのメチル化(<40%メチル化)を示し、かつ、ゲノムワイドな発現解析との 比較では、プロモーターメチル化と発現量は有意な負の相関を示しました。一方、5~10%のCpGIsはいずれの体細胞においても顕著にメチル化されてい ました。つまり、DNAメチル化は広範なCpG密度を保有するプロモーターの活性化を制御しているということが言えます。また、プロモーターCpGIsの 67%がメチル化されていなかったのに対して、非プロモーターCpGIsは29%がメチル化されていないにすぎませんでした(図2)。さらに、非プロモー ターCpGIs におけるRNA polymerase II結合レベルはプロモーターCpGIsの半分ということから、非プロモーターCpGIsはプロモーターCpGIsの半分しか機能していないようです。
本研究では、解析したゲノム領域の約18%が16種類の組織において有意に異なるDNAメチル化レベルを示し、その領域は組織特異的メチル化領域 (tDMRs:tissue-specific differentially methylated regions)に分類・定義付けされましたが、この全tDMRsの27%は精子において特異的でした(図 2)。また、異なる組織間で同じ遺伝子のプロモーターtDMRsメチル化とその遺伝子発現プロファイルを比較したところ、有意に負の相関が認められまし た。このことからプロモーターtDMRsは組織特異的遺伝子発現制御に関連していることが示されました。
以上のように、本研究で作成された、リ ファレンス・ヒトゲノムワイドDNAメチル化プロファイル、mPodはヒト組織特異的メチル化領域(tDMRs)をゲノムワイドに同定するために有用な手 段であることが示されました。また、NimbleGenアレイは長鎖プローブを自由にデザインできるため、このような研究にコストパーフォーマンスも含め 有用です。
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図1:Batmanの概説
左図-パネルは5種の異なるCpG濃度と数のCpGサイト の仮想的なゲノム領域を示している(赤丸はメチル化、白抜き丸は非メチル化CpGサイトを示す)。MeDIP濃縮はメチル化DNAサイトの数に比例するの で、これら5種の仮想的部位の補正された濃縮比(2番目のパネル)は、絶対的なメチル化レベルを正確に反映していない。Batmanは、メチル化DNAの log-比MeDIPシグナルが直線的に塩基配列上のメチル化CpGサイトの数に比例するという結果に基づいている。Bayesian deconvolution(複雑な信号を機器ノイズの除去により簡略化すること)ストラテジーを使用することにより、観察されるMeDIPシグナルを説 明する上で最も可能性が高い、塩基配列上のメチル化及び非メチル化CpGの構成配置が決定された。これは、ROI(Region of Interest;関心領域)における絶対的メチル化レベルの推定を可能とする。黄色、緑色、青色は各々、非メチル化、半メチル化、メチル化部位を示して いる。
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図2:体細胞DNAメチル化(上パネル)と組織特異的メチル化領域(tDMRs)(下パネル)の解析
上 のパネルは、異なるゲノム特性カテゴリーにおけるCpGo/e(observed/expected)についてのデータ分布を示している。データは非メチ ル化(<40%)、半メチル化(40~60%)、メチル化(>60%)に分類されている。メチル化データは全血からのものである。下のパネル で、線の上の棒は、各CpGo/eカテゴリーにおけるROIの割合を示しており、精子では<40%メチル化だが、総ての体細胞組織で>60% メチル化のもの(グレー)、もしくは一つもしくはそれ以上(総てでは無い)の体細胞組織において>60%メチル化であるもの(赤、これらは体細胞 tDMRs)を示す。線より下の棒(マイナス値)は同様に各CpGo/eカテゴリーにおけるROIの割合を示しており、精子では>60%メチル化だ が、総ての体細胞組織で<40%メチル化のもの(グレー)、もしくは一つもしくはそれ以上(総てでは無い)の体細胞組織において>60%メチ ル化であるもの(赤、これらも体細胞tDMRs)を示す。
BIOCHEMICA2009 NUMBER1 (No114)
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