微量または断片化したRNAサンプルにおける遺伝子発現研究に、極めて有用なツール;LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit

Gene Expression Corner

Balazs Jori1, Ferenc Pinter1, Andras Lorincz2, Tamas Micsik2, and Istvan Petak2*
1Molecular Pathology and Genetic Laboratory, KPS Medical Biotechnology and Health Care Services Ltd.
2I. Department of Pathology and Experimental Cancer Research, Semmelweis University, Budapest, Hungary
*Corresponding author: petak@kps.hu

イントロダクション

新規の分子標的、薬剤 の効果を予見できる、より優れた分子診断ツールやバイオマーカーを同定できるように、臨床組織や血液サンプルを用いた遺伝子発現研究に対する関心が高まっ ています。臨床サンプルは、限られた量と質でしか手に入らず、通常、一旦すべてのサンプルが処理されると、各サンプルを元には戻せないことが問題となりま す。また、これらのサンプルにおいては、しばしばmRNAの量が限られており、その質も不十分です。それゆえ、一般的には、極めて少量のmRNAから増幅 されたcDNAプールが、作製されることが望まれます。

我々は、ロシュのLightCycler® RNA Pre-Amplification Kit を使用することにより、量が不十分であったり、断片化しているmRNAを検出する遺伝子発現研究のために、必要な臨床サンプルの量を減らすことができるかどうかについて検証しました。

LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit は、Ribo-SPIA® 増幅テクノロジーを基本としています。Ribo-SPIA® テクノロジーにより、等温増幅反応によるトータルRNAのリニアな増幅が実施できます。元のRNA転写産物(cDNAのコピーではない)のみを、複製する ことにより、リニア増幅が実施されます。この方法を使用すれば、元のサンプルにおける各々の転写産物の相対的な発現量が維持されます。テクノロジーの基本 は、DNAポリメラーゼがcDNA複製を行った後、RNase HによりSPIA® DNA/RNA キメラプライマーが、繰り返し切断されることで、元のRNA転写産物は、最大10,000倍まで増幅されます。LightCycler® RNA Pre-Amplification Kitで増幅されたcDNAプールは、その後に実施されるqPCRのアプリケーションにとって理想的なものとなっています。

最初の実験において、我々は、腫瘍の外科的な切除の後に得られた膵臓がん組織を急速冷凍したサンプルから精製したRNAを使用しまし た。膵臓組織は、極めて高レベルのRNase 活性を持っており、通常、良質のRNAを得ることが難しいので、良いモデルシステムとなります。我々は、腫瘍特異的なピルビン酸キナーゼアイソフォーム (M2PK; M2 ピルビン酸キナーゼ)[1]と、ハウスキーピング遺伝子β-アクチン(ACTB)のqPCRによる遺伝子発現解析が、従来のcDNA合成法に比べて、 LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit を用いたRNA の増幅後に、40倍少ないトータルRNAから、効果的に実施できるかテストしました。

末梢血血漿の循環するmRNA断片(血漿や血清において循環する核酸、(circulating nucleic acid in plasma and serum, CNAPS))の検出と定量は、将来的ながんの分子薬物診断による予測や、病期診断、検出における、新規の非侵襲的な診断のアプローチとなる可能性を秘め ています。課題となるのは、細胞表面に結合していない遊離の循環するRNAは、血漿中にわずかに1-3 ng/mL しか存在していないことです[2-5]。これは、極めて少量のRNAしか、個々のサンプルから得られないことを意味し、それに続く信頼できるqPCR反応 のための障害となります。この問題を解決するために、我々は、LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit を使用することにより、膵臓と結腸直腸癌患者からの断片化した循環するmRNAのqPCR解析による感度を、向上させられるかどうか検討しました。

材料と方法

膵臓と結腸直腸癌患者からの、急速冷凍した膵臓癌サンプルと、1mL の末梢血血漿は、事前に単離され、使用前まで-80℃で保存しました。RNA精製の詳細な手順については、著者へ要望していただくことで、入手可能です。

cDNAの合成は、Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit (ロシュ)でアンカーオリゴ(dT)18 プライマーを用いて0.3 μgのトータルRNAから、あるいは、LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit を用いて25 ng のトータルRNAから実施しました。CNAPSサンプルについては、我々の分光光度計の検出限界以下であり、文献に基づいて 0.1 ng/μl と推測しました[4, 5]。そのため、各サンプルから、最大容量(12 μl)の精製したRNA溶液を従来の逆転写反応に使用し、5 μl をLightCycler® RNA Pre-Amplification Kit に使用しました。すべてのcDNA合成過程は、キットの説明書にしたがって行いました。

プライマとユニバーサルプローブライブラリー (UPL) プローブは、www.universalprobelibrary.com にて、無料でアクセスできる ProbeFinder qPCR アッセイデザインソフトウェアを使用して、デザインしました。PCR反応は、10 μl のLightCycler® 480 Probes Master(ロシュ)と、0.4 μl の各プライマー(M2PK フォワード: CAAAGGGGACTATCCTCTGGA; M2PK リバース: GAGGCTCGCACAAGTTCTTC)、0.4 μl のACTB Reference Gene Assay Primer set(ロシュ)、0.4 μl のM2PK (#30) とACTB用のUPL プローブ、0.5 μl の cDNA で、トータル容量20 μl としました。

qPCR反応は、LightCycler® 480を用いて、三重測定にて実施しました。LightCycler® 480に、最初からプログラムされているUPL dual-color probeの設定にしたがって、温度サイクル条件を設定、実施しました。マルチプレックスqPCRアッセイにおいては、FAMラベルされたM2PKの UPLプローブの蛍光シグナルは1番目の標準のチャンネルで検出し、同時に、より長い励起波長のための2番目のチャンネルによって、 LightCycler® Yellow 555でラベルされたリファレンスのACTB のUPLプローブの蛍光シグナルを検出しました。各々の増幅曲線のクロッシングポイント(Cp)値(log-linear 領域におけるサイクル数)は、LightCycler® 480 定量ソフトウェアを用いて計算しました。

結果と討論

膵臓癌組織サンプルから抽出さ れたRNAでの我々の研究において、sample Aは、良い品質と高いRNA濃度(946 ng/μl)のサンプルであり、一方、sampleBは、分解した低いRNA濃度(25.3 ng/μl)のサンプルでした。LightCycler® RNA Pre-Amplification Kitを使用して、我々は、両方のサンプルの25 ngのトータルRNAから、42 μl のcDNAプールを調製しました。その後のqPCRアッセイには、20 μl のトータルボリュームにおいて、0.5 μl を使用して実施しました。

ACTBとM2PKに対するCp値は、sample Aにおいて 20.7 と 25.9、sampleBにおいて 21.7 と 26.2 でした。cDNAの10倍希釈によって、両サンプルにおける2つの遺伝子間のCp値の差(5.12対5.28 と 3.77対3.74)は、変化しませんでした。このように、25 ngのRNAから、pre-amplificationで合成されたcDNAは、少なくとも84回のPCR反応に十分であり、潜在的には840回の qPCR反応にまで十分な量です。300 ngのトータルRNAの増幅を伴わない標準的なcDNAへの変換から生成された20 μl の DNAプールからの、0.5 μl の cDNAを用いた qPCR アッセイは、両方の遺伝子に対して3から9倍高いCp値が検出されました(表1)。Cpにおける変化は、sample A (4.62-5.23 サイクル)よりも、sample B(7.7-8.4 cycles) において、より大きくなりました。これは、より品質の低いsample Bでは、十分な品質のmRNAテンプレートの濃度が低いことに起因しており、RNA pre-amplificationの反応中に、より高いシグナルの増幅につながったと考えられます。

さらに、我々は、断片化したRNAを、oligo(d)T プライマのみを用いて標準的なcDNAアッセイで逆転写するよりも、oligo(d)T とランダムプライマーの両方を用いた pre-amplificationアッセイを用いて変換する方が、効率的であることを見いだしました。これらの結果は、Ribo-SPIA® 増幅テクノロジーが、より断片化したRNAサンプルのcDNAへの変換に対して特に有効である可能性を示唆します。

2つの異なるcDNAプールから実施されたqPCRにおいて、ACTBとM2PKに対するCp値のずれには、違いがありました。しかし、この違いは、2つのサンプルにおいて一致しており、mRNAの品質とは無関係でした。

これらの結果は、LightCycler® RNA Pre-Amplification Kitが、末梢血血漿から単離された遊離の循環するRNAのような、量がとても少なく、断片化したRNAサンプルのRNA増幅に対して、とても精度が高い ことを示しています。腫瘍の患者における循環するmRNAの遺伝子発現解析は、非侵襲的な診断ツールとしての有望なアプローチを提供します[2, 3]。過去の実験では、RNA pre-amplificationを用いないと、循環するmRNAは、しばしば検出できないか、もしくは、qPCRの信頼できる検出限界を超えて(35 サイクル以上で)、検出されるだけでした。このように循環するmRNAの信頼できる検出ができないことは、CNAPSに基づいた正確な定量的アッセイを確 立する妨げとなります。我々は、今回、LightCycler® RNA Pre-Amplification Kitが、4から8 Cpの間で、感度を増幅できることを示しました。

末梢血血漿サンプルから単離された12 μl のRNA溶液から、通常のcDNAアッセイで生成されたcDNAから得られるACTBのCp値は、29-35サイクルでした(図1と表2)。ハウスキーピ ング遺伝子のmRNAが、qPCRの検出限界であることは、明らかに、感度を増大させるテクニックの必要性を示しています。cDNA合成のために、 LightCycler® RNA Pre-Amplification Kitを使用することにより、ACTBのCp値は、9.8-13.1サイクル変化して、20-24.5サイクルの範囲になりました。このように、増幅シグ ナルは、量が低く、断片化したサンプルBのDNAにおいて観察された結果と似ていました。

これらのサイクル数の変化は、シグナル増幅における894から8,820倍の増加に相当します。半分以下(5/12 μl)の量のRNAが、RNA pre-amplificationに使用されたことと、cDNA溶液の最終容量が、2倍以上(42/20 μl)だったことを考えると、実際の増幅は、もっと大きいとさえいえます。

結論

LightCycler® RNA Pre-Amplification Kitは、複数の遺伝子発現解析のために、貴重なRNAサンプルを最大限に活用します。それは、極めて少量の、断片化したRNAサンプルの増幅にとって理 想的です。この非常に精度の高い手法は、今までの逆転写反応に対して、平均で1/40のRNA量しか必要とせず、増幅されたcDNAは、最大20倍の qPCR反応に対して十分な量が得られ、1,000倍まで高い感度を得ることができます。このことは、貴重な組織バンクから、少量のサンプルの遺伝子発現 解析を行う際に極めて有用となりえます。

リファレンス

  1. Mazurek S et al. (2005) Semin cancer Biol 15:300-308
  2. Dennis Lo Y (2001) ann NY acad Sci 945:1-7
  3. Fleischhacker m et al. (2007) Biochimica et Biophysica acta-Reviews on cancer 1775:181-232
  4. Valentin V. Vlassov et al. (2007) BioEssays 29:654-667
  5. Elena Y. Rykova et al. (2006) ann NY acad Sci 1075:328-333

表1:実験結果:膵臓癌サンプルから、Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit を用いて300 ng のRNAから合成された、あるいは、LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit を用いて25 ng のRNA から合成されたcDNA から得られたACTB, M2PKの増幅曲線のCp値

  Without Ribo-SPIA® With Ribo-SPIA® Cp differences
RNA 300 ng 25 ng  
cDNA 20 μl 42 μl  
cDNA/PCR 0.5 μl 0.5 μl  
Target ACTB M2PK ACTB M2PK ACTB M2PK
Sample Mean Cp
of
triplicates
STD Cp Mean Cp
of
triplicates
STP Cp Mean Cp
of
triplicates
STD Cp Mean Cp
of
triplicates
STP Cp Delta Cp Delta Cp
A 25.35 0.09 31.38 0.02 20.73 0.10 25.85 0.12 4.62 5.53
B 29.44 0.15 34.58 0.09 21.71 0.11 26.17 0.08 7.73 8.42
図1:ACTBの増幅曲線

図1:遊離の循環する血漿RNAサンプルの5 μl のRNAストック溶液からLightCycler® RNA Pre-Amplification Kitによって合成された、あるいは、同じものの12 μl のRNAストック溶液からRibo-SPIA®テクノロジーを用いないで合成された 0.5 μl の cDNAからの、ACTBの増幅曲線

表2:LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit と、胃腸の腫瘍患者の血漿中に含まれる遊離の循環するmRNAをqPCRで検出することにより、高い増幅効率が得られます。
LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit を用いると、クロッシングポイント(Cp)は、10サイクル早く現れます。

  Without Ribo-SPIA® With Ribo-SPIA® Cp differences
RNA Stock 12 μl 5 μl  
Total cDNA 20 μl 42 μl  
cDNA/PCR 0.5 μl 0.5 μl  
Sample Mean Cp
of
triplicates
STD Cp Mean Cp
of
triplicates
STD Cp Cp Delta Cp
1 33.77 0.11 20.67 0.37 13.11
2 29.64 0.29 19.84 0.06 9.8
3 34.42 0.12 23.69 1.38 10.73
4 34.53 0.06 22.75 0.21 11.78
5 34.64 0.47 24.82 0.40 9.82

Order INFO

製品名 製品番号 包装単位 希望価格
LightCycler® RNA Pre-Amplification Kit 5190894 1キット(32反応) ←製品番号をクリック
LightCycler® 480 Probes Master 4707494 5×1 ml(20μlの反応液量で約500回) ←製品番号をクリック
4887301 10×5ml(20μlの反応液量で約5,000回) ←製品番号をクリック
Transcriptor First Strand cDNA Synthesis Kit 4379012 1キット(50 回反応) ←製品番号をクリック
4896866 1キット(100 回反応) ←製品番号をクリック
4897030 1キット(200 回反応) ←製品番号をクリック
UPL ユニバーサルプローブライブラリーセット,ヒト 4683633 1セット(90プローブ:250反応分/50μl反応または625反応分/20μl反応) ←製品番号をクリック
UPL ユニバーサルプローブライブラリー,ヒト ACTB 遺伝子アッセイ 5046165 1 セット(200 反応分/50μl反応または500反応分/20μl反応) ←製品番号をクリック
ライトサイクラー480インスツルメント II 5015278 1台(96ウェル) ご照会
5015243 1台(384ウェル) ご照会
BIOCHEMICA2009 NUMBER1 (No114)

当社のカタログに掲載する製品は、ライフサイエンス分野の研究のみを目的としています。特に明記のない限り、診断用途目的には使用できません。カスタムバイオテック製品は、特に明記のない限り工業原料用のみを目的としています。
本ウェブサイトでは、幅広い利用者を対象とした製品情報を掲載しています。お住まいの国では利用できない製品、もしくは認可を受けていない製品の詳細情報が掲載されている場合もあります。それぞれの居住国における正当な法的手続や規制、登録、慣習法を満たしていない可能性のある情報の閲覧に関しては、当社は一切の責任を負いません。

ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社 〒105-0014 東京都港区芝2-6-1