9つの生物群系におけるメタゲノム機能のプロファイリング

Sequencing Corner

42のウイルス群系と45の微生物群系の1500万塩基ものメタゲノム の比較が、Elizabeth Dinsdaleらによって行われ、環境間で代謝プロファイルが大きく区別されることが示されました。機能的多様性は概ね各生物群間で保たれていました が、代謝活性に違いがあり、メタゲノム間の違いによって各環境間での地質特性が違うことが予測されました。様々な代謝の相対的な発生頻度やメタゲノム間の 違いによって、各環境の生物地球化学的な条件を予測することができました。

イントロダクション

微生物による代謝プロ セスを明らかにすることは、それを理解することとともに生態系をコントロールするために重要です。例えば、病気の原因となるキープロセスの途絶や環境保全 などがあげられます。ほとんどの微生物は培養が困難で、またゲノムの可塑性が高いため機能的な説明が困難です。
 遺伝子シグネチャ法とは異なり、メタゲノム的アプローチでは、微生物群やウイルス群の遺伝情報を解析することにより、すべての遺伝子に対する相対的存在比率の確認や、各微生物群の環境内での役割を確認することができます。

Dinsdaleらは9つの生物群系(地中、塩田、海水、淡水、サンゴ、ストロマトライトやトロンボライトなどの微生物堆積物、養殖 魚、陸上動物、蚊)の機能の可能性を解明するために、42のウイルス群系と45の微生物群系から得られた1500万もの塩基配列の頻度分布を統計解析しメ タゲノム比較解析を行いました。

材料と方法

集めたメタゲノムサンプルは各 研究室で一般的なプロトコールを一部改変した方法でDNAを精製しました。サンプル採取の場所は生物群ごとに広く分散させました。微量のメタゲノムサンプ ル中のウイルスは、塩化セシウム法による密度勾配を利用して浮遊DNAと細胞由来物質を除き精製しました。ウイルスサンプルは落射蛍光顕微鏡を用いて目視 にて微生物の混入が無いか確認しました。ウイルスDNAはCTAB(cetyltrimethylammonium bromide)およびアルコール混合抽出により抽出しGenomiphi反応で増幅させました。1つのウイルスのメタゲノムについては、自然界の微生物 サンプルを濃縮し、マイトマイシンCによる誘導を行いサンプル調製しました。シークエンシングは、454ゲノムシーケンサー20を用いたパイロシーケンス 法(読取鎖長105bp)を使用しました。DNA配列はオープンアクセスのメタゲノムのキュレーションと解析プラットフォームであるMeta Genome RASTにて解析しました。

配列は、DNAやタンパク配列、すべての利用可能なゲノムデータや各ゲノムセンターからの補完データが提供されている2007 SEEDにおいて比較しました。すべての統計データは既知機能との塩基配列の相同性をE値 <0.001を閾値としてパーセンテージで表現しました。

各環境において代謝プロファイルが異なるという仮説を確かめるために正準判別分析(canonical discriminant analysis (CDA))を行いました。CDA分析のために配列データは"SEED"の分類法に従いグループ化し、主要な代謝機能について分析しました。区別の基準と なる値は応答変数の一次結合値でメタゲノムサンプルごとに算出しました。

結果と考察

合計45の微生物群系メタゲノ ム由来の1,040,665塩基および42のウイルス群系メタゲノム由来の541,979塩基が"SEED"に登録されている機能遺伝子と有意な相同性が 見られました。メタゲノム解析によって得られた機能的多様性の情報はすべての環境において理論的限界値の2.81に近づいていることが確認され(表1)、 これはすべてのサンプル中にほぼすべてのサブシステムが存在することの証明となります。サンゴ関連微生物群に関しては毒性パスウェイ、細胞シグナルパス ウェイ、膜輸送パスウェイなどの二次代謝系が多く存在しないため、機能的多様性が低い結果になったと思われます。サンゴ関連の微生物群は分類学上広範囲に 属するため、共生菌のように進化の過程で不必要な機能を無くしたのだと思われます。メタゲノムの均一性がとても低いことは(<0.1; 表1)、各環境下において主要な代謝があまり多く存在しないことを意味しています。主要な代謝の違いを見ることで、メタゲノムの機能プロファイルの特徴を 知ることができます。

異なる環境間での相違の大部分(微生物群系の79.8%とウイルス群系の69.9%)はこの解析で説明でき、メタゲノム解析によって 各生態系における代謝の可能性を十分に予測できることが示されました(図1)。各メタゲノムのポジションは各サブシステムに関連しているDNA配列の頻度 を反映していて、ベクトルはどの代謝がもっとも強く分布に影響したかを示しています。またベクトルの長さは各代謝プロセスの影響の強さを示しています (例、呼吸やタンパクの代謝に関するサンゴ関連の微生物群のサブシステムは、陸上動物に見られる微生物群のものとはまったく違う位置に存在します)。

サマリー

 

これらのデータはメタゲノムに よって環境中の重要な生物学的特徴、新規の生物学的特徴を予測できることを示しています。複数のCDA解析データ間で環境グループを置き換えてみること で、メタゲノム解析によって様々なことが予測できることが確認できました。ウイルスによる微生物代謝能への影響は大きく、このことはウイルスが宿主である 微生物の遺伝子を保存していたり、微生物間で遺伝子を共有するための格納庫として機能し、グローバルな進化と代謝プロセスに影響を及ぼしていることがわか りました。

機能的均一性が低いと算出された微生物およびウイルスのメタゲノムは、個々の微生物ゲノムから算出された機能的多様性よりも低レベル でした。その結果、特定の代謝機能をコードしている遺伝子の頻度はその環境においての相対的重要性を示しており、分類学的背景にかかわらず特定の遺伝子の 頻度が優位なよう遺伝子が淘汰されます。つまり、分類学的に変化するというよりは、おそらく同所的に存在する微生物間の遺伝子が転移し合うことにより各微 生物の保有遺伝子群が変化し、結果的に環境内の遺伝子の分布に影響を与えていると考えられます。ここで示された機能的解析による多様性データの大部分(約 70%)はこの仮説をサポートしています。

This article was summarized for Biochemica from Dinsdale E et al. (2008) Nature 452:62 -632.

表1:Table 1: 9つの環境由来サンプルのメタゲノムの機能的多様性と均一性の平均値(出典: Dinsdale E et al.(2008)Nature 452:629-632)

  Functional diversity(H' Functional evenness
Biome Microbial Viral Microbial Viral
Subterranean 2.393(±0.030) - 0.005(±1.2×10-4  
Hypersaline 2.361(±0.006) 2.041(±0.021) 0.005(±1.4×10-4 0.012(±5.6×10-4
Marine 2.313(±0.021) 2.162(±0.026) 0.005(±0.9×10-4 0.007(±4.0×10-4
Freshwater 2.430(±0.003) 2.080(±0.034) 0.005(±0.9×10-4 0.010(±6.7×10-4
Coral 1.733(±0.059) 2.289(±0.023) 0.009(±5.2×10-4 0.007(±1.1×10-4
Microbialites 2.408(±0.015) 1.743(±0.115) 0.005(±3.8×10-4 0.019(±6.9×10-3
Fish 2.447(±0.001) 2.439(±3.1×10-4 0.005(±0.4×10-4 0.005(±0.7×10-4
Terrestrial animals 2.428(±0.006) 2.016(±0.173) 0.004(±0.1×10-4 0.017(±4.5×10-3
Mosquito - 2.395(±0.015)   0.004(±0.5×10-4
図1:(a)微生物のメタゲノムの機能解析。 図1:(b)ウイルスのメタゲノムの機能解析。

図1:微生物およびウイルスのメタゲノムの機能解析。
微生物(a)およびウイルス(b)メ タゲノムをCDA解析することにより、正準判別1および2による2次元表示で各生物群の代謝プロセスをグループ化し同定しました。各記号は各メタゲノムの 位置を示し、各ベクトルはステップワイズ法を用いメタゲノムの分画に影響を及ぼしていると思われるサブシステムの構造的マトリックスを示しています。ベク トルの長さは各代謝プロセスの影響の強さを示しています。微生物およびウイルスメタゲノムの相互検証のスコアはそれぞれ66.7%と59.9%でした(出 典: Dinsdale E et al. (2008) Nature 452:629-632)。

BIOCHEMICA2009 NUMBER1 (No114)

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