miRNAの抽出とFFPEサンプルのプロファイリング

Gene Expression Corner

Poul Erik Hoiby1 and Manfred Watzele2*
1Exiqon, Vedbaek, Denmark
2Roche Applied Science, Penzberg, Germany
*Corresponding author: manfred.watzele@roche.com

イントロダクション

RNAサイレンシングは、mRNA分解やmRNA翻訳、クロマチン修飾を引き起こす18~21塩基の低分子二本鎖RNA(dsRNA)による遺伝子制御 のメカニズムの一つです[1]。ここ一年で、動物や植物において低分子二本鎖RNAヘアピン構造を形成する転写物をコードする500以上の遺伝子が同定さ れています[2-4]。microRNA(miRNA)と呼ばれる22塩基の低分子RNAは、これらのヘアピン前駆体からdsRNA特異的エンドヌクレ アーゼによって切り出されます[5]。その際、miRNAはリボヌクレオプロテイン(RNPs)に組み込まれます[6]。動物のmiRNAのほとんどは、 ターゲットのmRNAの3'非翻訳領域の部分的に相補的な領域に結合し、翻訳をブロックします[7]。個々のmiRNAの発現はセルライン特異的に見ら れ、Caenorthabditis elegansでは組織分化を誘導すると考えられました[8]。B細胞慢性リンパ球性白血病や結腸直 腸新生物などの増殖性疾患のいくつかは、無秩序なmiRNA発現により起こります[9、10]。さらに、増殖や軸索ガイダンス、形態形成などのいくつかの 生理学的過程は、miRNAによる制御と密接に関連していると考えられています。

miRNAの機能を解明するためには、特定の具体的な組織のmiRNA発現の分析が必要です。クォリティの高いmiRNAサンプルを多量に獲得するため には、効果的なmiRNA抽出方法が必要です。ここでは、様々なホルマリン固定パラフィン包埋(以下、FFPE)組織や新鮮凍結サンプルからのHigh Pure miRNA Isokation Kitを用いたmiRNAの抽出について解説します。

材料と方法

A社、Q社、そしてロシュ・ダイアグノスティックス社から販売されている本キットの3種類を用いて、マウスの8種類の組織からトータルRNAを抽出しま した。8種類の組織の半分を新鮮凍結し、もう半分をホルマリン固定パラフィン包埋しました。比較対象として、新鮮凍結サンプルからTrizol® reagentでトータルRNAを抽出しました。すべてのキットで同じ量のFFPE組織を用いました。

A社、Q社から販売されているキットは、各添付説明書にしたがって使用しました。High Pure miRNA Isolation Kitは次のとおり使用しました。最初に8片の10μm組織切片をキシレン中でボルテックスし脱パラフィン処理を行い、エタノールで洗浄しました。次に Paraffin Tissue Lysis Bufferで溶解し、Proteinase Kで55℃で3時間処理しました。最後にBinding BufferとBinding Enhancerを混合し、カラムに結合し、Elution Bufferで溶出しました。

抽出した各サンプルのトータルRNA量は、NanoDropで測定しました。次に、FFPE組織から抽出したトータルRNAの1μgをHy3で、新鮮凍 結サンプルから抽出したトータルRNAをHy5で標識しました。新鮮凍結サンプル由来のトータルRNAに対して各FFPEサンプル由来のRNAの miRCURY miRNA Profilingを行いました。

結果

NanoDropでは、FFPE組織からHigh Pure miRNA Isolation Kitを用いて非常に多量のトータルRNA抽出ができたことを確認しました(図1)。

図1:8種のFFPEと50mgの新鮮凍結組織由来のトータルRNAの収量

新鮮凍結サンプル由来のトータルRNAに対する各FFPEサンプルのmiRCURY miRNA Profilingにより、個々のmiRNAを同定しました。High Pure miRNA Isolation Kitを用いた、ほとんど全てのFFPEサンプルで非常に多くのmiRNAが同定できました。(図2)。

High Pure miRNA Isolation Kitで処理したサンプルについて、miRCURY miRNA Profilingで高いシグナルを生じました(図3)。

新鮮凍結組織中のmiRNA発現レベルとFFPE組織中のmiRNAの発現レベルを比較した際、A社キットでは低い相関しか得られなかったのに対して、 High Pure miRNA Isolation Kitでは非常に高い相関が得られました(表1、1.0は100%の相関を示します)。

miRNAマイクロアレイプロットプロファイルにおいて、FFPEサンプルの多くのmiRNAレベルは、新鮮凍結組織のmiRNAレベルの+/-2以内 です(データ未掲載)。異常値を表2に記載します。このデータに見られるように、High Pure miRNA Isolation Kitを使用した場合、新鮮凍結組織と異なるmiRNAレベルを示したFFPEサンプルはほとんどありませんでした。

図2:FFPEサンプル中で検出したmiRNAの数

図3:miRNA強度プロファイル
各色はFluorescence units(FU)を示しています。
緑色:0~50FU、黒色:50FU、赤色:50~2000FU

表1:FFPEと新鮮凍結サンプルのmiRNA発現レベルの相関係数

肝臓 腎臓 心臓 膵臓 筋肉
ロシュ 0.9686 0.9719 0.9815 0.9739 0.9642 0.9717 0.9717 0.9557
A社 0.9779 0.9173 0.9609 0.8566 0.9493 0.9057 0.9057 0.9037
Q社 0.9720 0.9711 0.9834 0.9713 0.9564 0.9781 0.9781 0.9770

表2:新鮮凍結切片のmiRNAに対して+/-2以上の値を示したmiRNA

A社 Q社 ロシュ
Name Up in FFPE Down in FFPE Name Up in FFPE Down in FFPE Name Up in FFPE Down in FFPE
mmu-miR-129-5p* 5.4   miRPlus_17904* 4.3   miRPlus_17904* 3.3  
miRPlus_17904* 4.1   mmu-miR-129-5p* 3.5   mmu-miR-129-5p* 2.5  
mmu-miR-710 3.3   13206(nkt)* 3.4   13206(nkt)* 2.2  
11146(nkt) 3.1   13520(nkt) 3.0        
17473(nkt) 3.0   mmh-miR-542-5p 2.8        
mmu-miR-503 2.7   mmu-miR-710 2.7        
13520(nkt) 2.6   17328(nkt) 2.4        
mmu-miR-503_MM1 2.4   17473(nkt) 2.2        
14434(nkt) 2.4   17561(nkt) 2.2        
13445(nkt) 2.4   mmu-miR-483 2.0        
mmu-miR-721 2.1   13447(nkt) 2.0        
mmu-miR-451   -2.1 mmu-miR-451   -2.0      
mmu-miR-148   -2.1 mmu-miR-16_MM1   -2.1      
16933(nkt)   -2.1 mmu-miR-142-3p   -2.1      
mmu-miR-142-3p   -2.2 mmu-miR-142-5p   -2.4      
mmu-miR-144_MM1   -2.2 mmu-miR-144_MM1   -2.5      
mmu-miR-142-5p   -2.63            
mmu-miR-16_MM1   -2.5            

表3:アップレギュレートされたmiRNAのシークエンス分析

miRNA プローブD プローブ配列 リバース
プローブ配列
miRNA配列 TM CG(%)
mmu-miR-710 17489 mCtcAacTctmCccmCaaGacTt aagtcttggggagagttgag CCAAGUCUUGGGGAGAGUUGAG 72 50.0
mmu-miR-542-5p 14291 caTgaTgaTccmCcgAg ctcggggatcatcatg CUCGGGGAUCAUCAUGUCACGA 71 56.3
mmu-miR-129-5p 10934 aaGccmCagAccGca tgcggtctgggctt CUUUUUGCGGUCUGGGGCUUGC 72 64.3
miRPlus_17904 17904 GagGaaAgcmCagmCcc gggctggctttcctc   72 66.7
13520(nkt) 13520 cgmCagGctmCcamCttAaaTa tatttaagtggagcctgcg UAAAUAUUUAAGUGGAGCCUGCGACU 72 47.4
17473(nkt) 17473 mCgcmCagmCccAtcc ggatgggctggcg GGGGAUGGGCUGGCGCGCGG 72 76.9
  予測ターゲット BLAST hits      
miRNA Targetscan Miranda G+T2MM      
mmu-miR-710 223 921 4262      
mmu-miR-542-5p 4 none 745      
mmu-miR-129-5p 346 none 195      
miRPlus_17904 none none 4224      
13520(nkt) none none 3120      
17473(nkt) none none 535      

さらに、FFPEサンプルから得られたmiRNA量は他のキットと異なることを示しました。意外にも、High Pure miRNA Isolation Kitで検出された異常なmiRNAの存在はQ社のキットでも検出されました(データ未掲載)。

そればかりでなく、6種のランダムに選択したプローブの比較(表3)では、GC含量もプローブ鎖長も異常を示しませんでした。予測したターゲットの数 は、ゲノムとトランスクリプトームに対するBLASTでヒットした数としても標準的な範囲でした。さらに、dye-swap実験で、dye-biasが無 いことを確認しました。

結論

High Pure miRNA Isolation KitはFFPE組織からmiRNAを抽出するための全ての試薬を含んでいます(キシレンを除く)。このキットを使用すると、検証したほとんど全ての組織 で多量のトータルRNAと高いシグナルが得られました。また、High Pure miRNA Isolation Kitでは最多数のmiRNA種が検出できました。FFPEと新鮮凍結サンプルの結果では非常に良い相関関係が得られました。アップレギュレーション miRNA(異常値)は、異常なプローブ配列やdye-biasだけで説明することは不可能です。

リファレンス

  1. Carrington JC, Ambros V (2003) Science 301:336-338
  2. Lagos-Quintana M et al. (2001) Science 294:853-858
  3. Lagos-Quintana M et al. (2003) RNA 9:175-179
  4. Palatnik JF et al. (2003) Nature 425:257-263
  5. HutvQgner G et al. (2001) Science 293:834-838
  6. HutvQgner G, Zamore PD (2002) Science 297:2056-2060
  7. Reinhart BJ (2000) Nature 403:901-906
  8. Pasquinelli AE , Ruvkun G (2002) Annu Rev Cell Dev Biol 18:495-513
  9. Calin GA et al. (2002) Proc Natl Acad Sci U.S.A. 99:15524-15529
  10. Michael MZ et al. (2003) Mol Cancer Res 1:882-891
  11. Order INFO

    製品名 製品番号 包装単位 希望価格小売(税抜)
    High Pure miRNA Isolation Kit 5080576 50回 33,000円

    BIOCHEMICA2008 NUMBER3 (No112)

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