アフィディコリン誘発性の複製ストレスはFHIT/FRA3Bにおける極微小の腫瘍様欠失を誘導する

Microarray Corner

参照文献:Durkin SG et al. (2008) Proc Natl Acad Sci USA 105:246-251

イントロダクション

染色体脆弱部位(CFS)とは、DNA合成の部分的阻害、例えば、アフィディコリン(APH)によって誘発される部分的合成阻害の後に、分裂中期の染色体上でギャップおよび切断を形成しやすい遺伝子座のことです。 FRA3B(FHIT癌抑制遺伝子内に存在する脆弱部位)は、癌細胞および前癌状態の病変において、ヘテロ欠失およびホモ欠失が高頻度で生じる部位です。癌細胞における、FHITお よびその他のCFS関連の遺伝子再構成では、何百キロベースかの欠失が生じ、関連遺伝子の不活性化を引き起こすことがよくあります。しかし、CFSの不安 定性や複製ストレスが、癌細胞で生じるような極微小の欠失を引き起こすことを示す直接的な証拠はこれまで示されていませんでした。Durkinらは、これ ら癌細胞で生じるのと類似のFHIT/FRA3B欠失を、ヒト-マウス3番染色体体細胞ハイブリッドへのAPH処理によって作成しました。また彼らは、PCR、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)解析およびFISHを用いて、生じたFHIT/FRA3B欠失細胞の集団を分析しました。 クローンの13~23%で、FRA3B内に200~600 kbの欠失が生じていました。 また、FRA3B欠失を有する染色体では、この遺伝子座の脆弱性の減少が示されました。

材料と方法

欠失クローンの生成

欠失を生じさせるために、GM11713ヒト-マウス体細胞ハイブリッドを0.3μMまたは0.6μMの用量のAPHで5日間処理した後、1日の回復時 間を設けました。 その後、細胞を低密度でプレーティングし、7~10日後に個々のクローンをクローニングリングを用いて分離しました。

アレイ

110-bp間隔で配置された385,000種類の特異的配列オリゴヌクレオチドを搭載した3番染色体カスタムアレイ(Roche NimbleGen)を使用しました。

結果と考察

FRA3B欠失は、1.5 MbのFHIT遺伝子全体および3 Mbのフランキング配列に10-kbから30-kb間隔で分布している146のPCRマーカーによってスクリーニングされました。 90クローン(0.3μMのAPH処理細胞由来が30クローン、0.6μMのAPH処理細胞由来が30クローン、対照群が30クローン)についてスクリー ニングを行ったところ、低用量APH処理群ではクローンの13%(30クローン中4クローン)、高用量のAPH処理群ではクローンの23%(30クローン 中7クローン)に、FRA3Bにおける欠失が示されましたが、一方で、未処理の対照群では検出可能な欠失は存在しませんでした。これら11クローンは、全 てFHIT遺伝子内に欠失が生じていました。ほとんどの欠失はエキソン5に集中しており、そこがFRA3Bの脆弱性の中心であると考えられ ます(図1)。 欠失の長さの平均は約392 kbで、最小の欠失長は187.2 kb、最大の欠失長は618.8 kbでした。 低用量のAPH処理群のクローンでの欠失長(約359.3 kb)は、高用量処理群のクローンでの欠失長(約411.3 kb)よりも短かくなりました。 これらのクローンに加え、パイロット試験において得られていた0.6μMのAPH処理により誘発されたFRA3B欠失を有する4クローンをPCRによって 解析しましたが、APH誘発性欠失の頻度解析は行いませんでした(図1)。

PCRで同定された全15クローンのFHIT/FRA3B欠失は、FISH分析によっても検証されました。 欠失境界の解像度を上げるために、4つの欠失クローン(3-16、6-30、p-43、p-851)を選別し、FHIT遺 伝子座にオリゴヌクレオチドプローブが110-bp間隔で搭載された高密度マイクロアレイを用いてCGH解析を行いました。 クローンp-43は、PCRで特定された場所よりも、テロメア側 約2 Mbの場所に切断点を示しました。p-43以外の3クローンでは、CGH解析で検出された切断点は、PCRで特定された欠失境界の範囲内でした(表1)。 この不一致は、PCRのアーティファクトか、クローンp-43における複雑な再構成に起因する可能性が高いと思われます。 クローン3-16では、FRA3Bの230-kbの欠失の隣に50-kbの重複を示しており、APH誘発性の複製ストレスは、欠失に加えて大きな重複を誘 発する可能性があることを示唆しています。

Durkinらは、本実験で明らかにされたAPH誘発性FHIT欠失位置と、さまざまな腫瘍および腫瘍由来細胞株において既にマッピングされていた複数のFHIT欠 失位置を比較しました(図2)。 腫瘍における切断点の解像度は、APH誘発性欠失クローンにおける解像度よりも概して大幅に低くなりますが、APH誘発性欠失は腫瘍での欠失とサイズや領 域が類似しています。例えば、食道癌細胞株、小細胞肺癌、非小細胞肺癌および乳癌でも、FHIT遺伝子のエキソン5周辺に集中して欠失が存在します。

分裂中期の染色体上のAPH誘発性のギャップおよび切断を分析することで、欠失がFRA3Bの安定性に及ぼす影響を検討しました。 全ての欠失クローンにおいて、APH処理によるFRA3Bの切断が依然生じていましたが、その頻度は対照群と比較して低くなりました。 最大の欠失(3.6 Mb)を有するクローンでは切断頻度が最も低く、他の全てのクローンで切断頻度が類似していることが示されました。これにより、欠失サイズの増大と脆弱性 の減少の相関関係が示唆されました。

BLAST配列解析では、相同性に依存した修復を示唆するような配列伸長は、15の欠失クローンのいずれにおいても発見されませんでした。 3クローンにおいて切断点の結合部全体にわたったシークエンシングを行ったところ、直接反復配列・間接反復配列・同一配列は切断点では検出されず、相同配 列・同一配列の延長領域も発見されませんでした。更に、パリンドローム配列も同定されませんでした。

結論

Durkinらは、 APH誘発性複製ストレスがFHIT/FRA3Bにおいて数百キロベースの極微小の欠失を引き起こすことを示しました。この研究の結果は、腫瘍形成中の複製ストレスが、FHIT等 の関連癌抑制遺伝子を不活性化する可能性のある、CFSにおける欠失と重複に関与しているという仮説を裏付けています。このように、極微小の欠失は、複製 ストレスの結果としてしばしば生じる可能性があります。 また今回用いられた方法は、CFSの不安定性の研究にとって生物学的に有意義な分析法であると言えるでしょう。

 

図1:APH誘導性FHIT/FRA3B欠失の位置。
PCRによって決定されたAPH誘導性FHIT/FRA3B欠失の位置を示します。クローン6-3、6-9、6-11、6-19、 6-21、6-30、p-10、p-43、p-154、p-851は0.6 mM APH処理により生じたもの、クローンp-10、p-43、p-154、p-851はパイロット実験。クローン3-1、3-5、3-16、3-24は 0.3 mM APH処理により生じたものです。

表 1 : CGH解析によって決定された欠失の切断点。FHIT欠失、クローン、末端側境界、中央側境界、FHIT複製

FHIT deletions
Clone Distal boundary Proximal boundary FHIT duplications
6-30 60,230,237 60,734,018 None
p-851 60,342,988 60,765,820 None
p-43 56,889,623 60,487,704 None
3-16 60,401,085 60,627,358 60,716,2370-60,765,695

図2:ヒト癌におけるFHIT欠失。
公開されている癌および癌細胞株における欠失の代表例とAPH誘導性の欠失を比較しました。それぞれの横線はそのサンプルにおいて25%以上の欠失のある領域を示しています。カッコ内の数字はサンプル数(n数)を示します。

BIOCHEMICA2008 NUMBER2 (No111)

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