LightCycler® 480システムを使用した定量的クロマチン免疫沈降(ChIP)

Gene Expression Corner

Francesca Stiadi1,2,3, Muriel D. David1, and Wilfred A. Jefferies1,2,3*
1Biomedical Research Centre, Vancouver, Canada; 2Michael Smith Laboratories, Vancouver, Canada; 3Department of Zoology, University of British Columbia, Vancouver, Canada
* Corresponding author: wilf@brc.ubc.ca

イントロダクション

抗原のプロセシングと提示能は免疫監査において重要な役割を果たしています。自己または腫瘍関連由来の抗原ペプチドは、プロテアソームによって分解され ることにより細胞質内で作られます。ATP結合カセット(ABC)トランスポーターファミリーの一種である、抗原ペプチドトランスポー ター(Transporter associated with antigen processing: TAP)は、これらの抗原ペプチドを細胞質から小胞体(endoplasmic reticulum: ER)内腔へと輸送する機能を有しています。小胞体内腔ではこれらの抗原ペプチドは、β-ミクログロブリン(β2M)と主要組織適合性複合体(major histocompatibility complex: MHC)クラスⅠ重鎖分子と3重複合体を形成しています。これらの複合体は、次に細胞表面へ運ばれ、最終的に非自己抗原を提示する細胞を殺す細胞傷害性T リンパ球(CTL)に認識されます。

本報告では、転移性がん細胞における免疫監査抗原提示パスウェイのコンポーネントの欠陥を示します。小胞体内腔における3重複合体が異常を示している多 くの腫瘍では、TAP-1分子の発現欠失やダウンレギュレーションが共通して見られます。このことはMHCクラスⅠによる細胞表面の腫瘍の抗原提示の欠陥 を示しています。その結果特異的CTLが有害細胞を認識し殺すことができなくなります。

腫瘍細胞におけるTAP-1の欠失のメカニズムは完全に解明されていません。多くの腫瘍細胞におけるTAP-1のダウンレギュレーションは、mRNAレ ベルで起こっているという転写レベルでの欠陥を示唆する報告もあります。遺伝子のプロモーターとRNAポリメラーゼⅡ(pol Ⅱ)がコンプレックスを形成することは転写開始の重要なイベントです[1]。我々はTAP-1の転写障害が、RNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモー ターへの動員の不足によるものと仮定して検証しました。クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイおよびリアルタイムPCRによって、TAP発現および TAP欠失細胞におけるTAP-1プロモーターへのRNAポリメラーゼⅡ動員レベルを比較しました。さらに、RNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモー ターへの動員レベルにおける薬物処理の影響について調べることを目的としました。

ChIP産物をリアルタイムで定量することは、一般的に使用されている半定量PCR法と比較していくつかの利点があります。サンプル間の量的違いを決定 する際、定量リアルタイムPCR法ではゲルバンドの濃さを見積もるよりも非常に正確な定量性が得られます。LightCycler® 480システムでは96サンプルまでを同時にランし解析することが可能です。それぞれ独立した実験サンプルをプールしまとめて解析することもできます。

材料と方法

セルラインと試薬

はじめに、TAPを発現しているマウス腫瘍セルライン(TAP+)と、TAP欠失を誘導したセルライン(TAP-)を10%の熱不活化ウシ胎児血清 (FBS)を添加したDMEM培地で培養しました。各細胞は、薬剤X処理、薬剤Y処理、薬剤未処理の3つのグループに分割しました。

クロマチン免疫沈降アッセイ

クロマチン免疫沈降は、1サンプルにつき20,000,000細胞を使用しました[2]。Protein A Sepharose CL-4Bビーズ(Amersham Bioscience)と5μgの抗RNAポリメラーゼⅡ(N-20、sc-899、Santa Cruz Biotechnology Inc.)ポリクローナル抗体(Ab)を免疫沈降に使用しました。各サンプルについて並行して抗体無しのMockによる共沈を行い、ゲノムDNAと Protein A Sepharoseビーズの非特異的共沈を検出しないことを確認しました。内在性のTAP-1プロモーターの各サンプルとの共沈レベルについて、TAP- 1プロモーターの3’末端特異的なプライマーを使用してリアルタイムPCRで定量化しました。プライマーの配列は次のとおり:
TTCTTCCTCTAAACGCCAGCA(forward);
CGAGCGTGAGCTGTCCAGAGTCT(reverse)。次に示す検量線(Ct vs. log [コピー数])を作成するのと同じプロトコールに従って、マウスTAP-1プロモーター[3]領域を含むプラスミドを段階希釈したものを増幅しました。式 [(Ct - y切片)/(傾き)]を使用して、各ChIP沈殿物のコピー数[(溶出液、バックグランド(抗体無し)、インプット液]を決定しました。その後バックグラ ンドの沈殿物を溶出液から除きました。RNAポリメラーゼⅡの相対量は、溶出されたTAP-1プロモーターのコピー数とインプット量(それぞれのサンプル に存在するトータルDNA量)に相当するコピー数の比として決定しました。

リアルタイム定量PCR解析

精製したゲノムDNAをテンプレートとして、トータル反応容量10 μlにおいて、500 μMの各プライマーと1 μlのSYBR GreenⅠマスターミックスを使用して増幅反応を行いました。LightCycler® 480を使用して、熱変性(95℃5秒)、アニーリング(61℃5秒)、伸長(72℃20秒)を40サイクルで反応を行いました。

結果と考察

TAP発現細胞よりもTAP欠失細胞においてTAP-1プロモーターへのRNAポリメラーゼⅡの動員が少ないことが示されました。

TAP欠失細胞においてTAP-1転写の欠陥によりTAP-1のmRNAの発現が欠乏しているかどうかを調べるために、ChIPを用いてTAP欠失細胞 (TAP-)とTAP発現細胞(TAP+)におけるTAP-1プロモーターに動員されているRNAポリメラーゼⅡのレベルを比較しました。そこでTAP- 細胞へのRNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへの動員レベルは、TAP+細胞よりも約2.5倍低く(図1)、少なくとも部分的にTAPを欠失し た転移性がん細胞において転写機構に欠陥があることが示されました。

薬物XはTAP欠失細胞において、薬物YはTAP発現および欠失の両方の細胞において、RNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへ動員を高めました。

我々はさらに、TAP+およびTAP-細胞についてRNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへの動員におけるXとYの2つ薬物の効果を確認しまし た。ChIP解析の前に、薬物XとともにTAP-細胞を48時間インキュベーションするとTAP+細胞と同じレベルまでRNAポリメラーゼⅡのTAP-1 プロモーターへの動員が増加することが示されました(図2)。さらにTAP+およびTAP-セルラインを薬物Yで48時間処理すると、RNAポリメラーゼ ⅡのTAP-1プロモーターへの動員レベルがそれぞれ3倍、8倍と顕著に増加しました(図2)。この結果は、薬物Xによる処理がこのTAP-セルラインに おけるRNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへの結合レベルを十分に修復するが、薬物Yが薬物XよりTAP-1プロモーターを活性化するより強力 な誘発剤であることを示しています。

結論

我々は、LightCycler® 480システムを使用して、複数のChIPサンプルを測定し、溶出液、バックグランド(抗体無し)、インプット液のコピー数を算出することができました。 本システムを使用すると、複数のセルラインについて処理あり/無し、をはじめ、タンパク質の特定DNA配列への結合レベルを比較定量することが可能です。 上記の薬物処理実験において、トータル18サンプル(2セルライン、それぞれ2種類の薬物にて処理あり/無し、各サンプルは溶出液、バックグランド、イン プット用に分配)を同時に解析することができました。さらにもう1セルラインを加えて9サンプル追加した実験をしても、コントロールを含めて27サンプル までを迅速に同時に測定できます。LightCycler® 480システムは、定量的に複数のChIP解析を行うにあたって時間的、予算的に有効な方法です。

謝辞

原稿の批評をいただいたRobyn Seippに感謝します。

リファレンス

  1. Burley SK, Roeder RG (1996) Annu Rev Biochem 65:769-799
  2. Giraud S et al. (2002) J Biol Chem 277:8004-8011
  3. Setiadi AF et al. (2005) Cancer Res 65:7485-7492

Order INFO

製品名 製品番号 包装単位 希望価格
LightCycler® 480インスツルメント 4 640 268
4 545 885
1台(96well)
1台(384well)
ご照会
ご照会
LightCycler® 480 SYBR Green Iマスター 4 707 516
4 887 352
5 × 1ml(2 × 濃度)
10 × 5ml(2 × 濃度)
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図1:TAP発現細胞(TAP+)と比較して、TAP欠失転移性がん細胞(TAP-)における、RNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへの低レベルの動員。
各セルラインにおけるTAP-1プロモーターのRNAポリメラーゼⅡレベルを、抗RNAポリメラーゼⅡ抗体を使用したクロマチン免疫沈降によって検証しま した。精製された溶出DNA断片をTAP-1プロモーターの3'末端特異的プライマーを使用してリアルタイムPCRのテンプレートとして使用しました。溶 出されたTAP-1プロモーターのコピー数は、インプット量に相当するコピー数で標準化し、RNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへの結合の相対 レベルを決定しました。結果は、TAP+セルラインがTAP-セルラインを上回った値を相対比として表しました。

図2:薬物XおよびYによる処理で、TAP欠失細胞(TAP-)において最もRNAポリメラーゼⅡのTAP-1プロモーターへの動員が増加しました。抗RNAポリメラーゼⅡ抗体を使用したクロマチン免疫沈降は、薬物処理の前に行いました。

BIOCHEMICA2008 NUMBER1 (No110)

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