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ヒストンH3のアルギニン2(H3R2)がメチル化された状態(H3R2me2a)は、哺乳類だけでなく、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae) にも存在していることが最近のKirmizisの研究から明らかになりました。H3R2me2a抗体と高密度DNAマイクロアレイを用いたChIP- chip解析により、このメチル化が酵母ゲノム全体に分布していることが判り、更なる解析から、ヘテロクロマチン遺伝子、不活性なユークロマチン遺伝子、 および転写頻度が低い遺伝子の3’末端領域、に多く分布していることが判りました。更に、ヒストンH3リジン4(H3K4)のトリメチル化状態 (H3K4me3)に対する抗体でChIP-chip解析を実施し、H3R2me2aの解析結果と比較したところ、H3R2me2aとH3K4me3は常 に相互に排他的に分布していました。Kirmizisは、H3R2メチル化が、メチル化酵素Set1メチルトランスフェラーゼによるH3K4メチル化を抑 制することを見出し、更に、Set1のサブユニットSpp1がH3K4メチル化を制御する重要因子であることを発見しました。このKirmizisの報告 は、クロマチンのアルギニンメチル化の機能およびメカニズムについて初の知見になります。
ヒストンの修飾はクロマチン構造に影響を与え、そのことにより、重要な生物学的プロセスをコントロールしています。例えば、ヒストンのリジンやアルギニ ンのメチル化は遺伝子の転写に影響を与えます。更に、H3K4のメチル化は転写されている遺伝子の5’末端に見られ、クロマチンリモデリング酵素群による 転写活性制御にも影響を与えています。一方、H3K4の近傍のH3R2は、非対称的にジメチル化することが哺乳類を用いた研究で知られていますが、遺伝子 中の分布および機能については知られていません。
対数増殖期の酵母細胞を集菌し、ホルムアミドによりクロマチンとヒストンをクロスリンクさせました。その後、クロマチンを平均300bpに断片化し、ヒ ストンの修飾アミノ残基を特異的に認識する抗体(anti-H3R2me2a、anti-H3K4me3など)により、クロマチン免疫沈降を行いました。
クロマチン免疫沈降により得られたDNAを、リンカー配列に基づきPCR反応により増幅しました。増幅後、蛍光標識し、NimbleGen社製DNAマ イクロアレイにハイブリさせました。このDNAマイクロアレイは、一枚のスライドガラスに379,521本の50mer合成オリゴが搭載されており、酵母 全ゲノム(両鎖)を網羅できるように、約64bp毎に一本の割合で合成オリゴDNAが設計されました。
H3R2me2aは、酵母(野生株)における4箇所のヘテロクロマチン領域の全て(サイレント交配型遺伝子領域(HMR、HML)、rRNAをコードす るリピート領域(rDNA repeat)、テロメア領域)に分布していました(Figure 1)。また、H3R2のメチル化が多い領域では、H3K4のメチル化(H3K4me3)は観察されませんでした。更に、H3R2に変異を持つ株 (H3R2A、H3R2Q)においては、HMR領域、テロメア領域、rDNA repeat領域において、ヘテロクロマチンのサイレンシング機能の欠失が観察され、HML領域においても、その傾向が見られました。以上のことから、 H3R2はヘテロクロマチンのサイレンシングに必須であり、このH3R2のメチル化がこの過程に大きく関わっていることが示されました。
H3R2me2aがヘテロクロマチン制御に関与しているかを調べるために、Kirmizisは、ヘテロクロマチンの重要因子であるRap1pや Sir2pのChIP-chip解析結果と、H3R2me2aのChIP-chip解析結果とを比較しました。結果、テロメア領域において、これらの因子 とH3R2me2aは同時に分布していることが判りました。しかし、変異株H3R2AにおけるRap1pおよびSir2pの分布が野生株の結果と同様で あったことから、H3R2メチル化はRap1pやSir2pに依存していないことが判りました。
ユークロマチン領域におけるH3R2me2aの機能を調べるために、酵母の5,065遺伝子を転写レベルに応じて5段階に分類し、H3R2メチル化の分 布を比較しました。結果、メチル化の分布は転写レベルに応じて変化していることが判りました。H3R2me2aは主にコーディング領域の中心付近から3’ 末端領域にかけて分布しており、転写頻度が一番低い段階において、最も多くのH3R2me2aが観察されました(Figure 2a)。このことから、転写活性と負の相関がH3R2me2aの分布にあることが判りました。一方、H3K4me3は主に遺伝子の5’末端領域に多く分布 し、転写頻度が高い段階において、最も多くのH3K4me3が観察されました(Figure 2b)。これらの結果は、H3R2とH3K4のメチル化の分布は、拮抗的な関係にあることを示唆しています。
3つのH3K4メチル化の形態(H3K4me1、H3K4me2、H3K4me3)とH3R2me2aの分布を比較したところ、解析した転写頻度の異な る(無し、低、高)全ての遺伝子について、H3R2me2aとH3K4me3は相互に排他的に分布していることが判りました。転写されていない遺伝子で は、プロモーター領域とコーディング領域の全域にH3R2me2aが分布しているのに対し、H3K4me3は全く観察されませんでした。転写活性が低い遺 伝子では、H3R2me2aは3’末端領域に分布しているのに対し、H3K4me3は5’末端領域に分布していました。転写活性が高い遺伝子では、 H3R2me2aは観察されないのに対し、H3K4me3はプロモーター領域、コーディング領域の全域に分布していました。このような相互に排他的な分布 は、酵母において既知のトリメチル化リジン、H3K36me3やH3K79me3では観察されませんでした。これらの結果は、転写活性が無い遺伝子のプロ モーター領域およびコーディング領域に分布するH3R2me2aが、転写活性の上昇とともに、5’末端からH3K4me3に置き換わっていくことによっ て、分布が3’末端に向けて後退していくことを示しています。
抑圧的な環境(+グルコース)から活性化される環境(+ガラクトース)に培養条件を移行させると、排他的な関係にあるH3R2me2aとH3K4me3 は、片一方が除去されると、もう片一方が組み入れられる、という様に分布を大きく変化させました。更に、H3R2の変異(H3R2AやH3R2Q、 H3R2K)は、H3K4me1やH3K4me2に影響を与えないのに対し、H3K4me3の分布を大きく減少させました。また、変異株H3R2Aや H3K4Aは、GAL遺伝子群の活性を遅らせることが判りました。これらの結果から、H3R2およびH3K4は共通の制御メカニズムによって影響を受けて いる事が示されました。
H3R2me2aとH3K4me3との間で排他的な関係に応答するメカニズムは、メチルトランスフェラーゼアッセイにより調べられました。H3R2は Set1pメチラーゼ複合体の認識部位であり、H3R2のメチル化はSet1pによるH3K4のメチル化を阻害することが示されました。また、Set1p のサブユニットSpp1は、H3K4me1やH3K4me2の分布の多少に関わらず、H3K4me3は存在するがH3R2me2aは存在しない箇所に結合 することが示されました。
この報告は出芽酵母におけるH3R2メチル化の存在を証明し、その機能に着目した研究です。H3R2me2aとH3K4me3はヘテロクロマチン、ユー クロマチンの双方で排他的に分布しています。転写活性が無い遺伝子においては、H3R2me2aはプロモーター領域およびコーディング領域の全域に分布し ていますが、H3K4のメチル化は殆ど観察されません。転写活性が上昇するに従い、H3R2me2aはSet1pによるメチル化(H3K4me1や H3K4me2)を阻害しなくなります。H3K4me3の合成には、H3R2のメチル化は取り除かれる必要がありますが、H3R2のメチル化が除去される と、Spp1はH3K4me2を認識できるようになり、結果として、Set1pメチラーゼ複合体によるトリメチル化が促進されます。酵母およびヒトにおい て、類似したH3K4メチル化のメカニズムが発見されていることから、本報告で酵母において発見されたH3R2メチル化のメカニズムは、より高次の生物に おいても保存されていることが期待されます。
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図1:ヘテロクロマチン領域のH3R2me2aとH3K4me3の分布
ChIP-chip解析結果から、ヘテロクロマチン領域のH3R2me2a(-)とH3K4me3(-)の分布を示しています。Fold enrichment < 1は、その領域がメチル化されていないことを示します。矢印は、転写される遺伝子の位置と方向を示し、四角形はテロメア領域を示します。
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図2:ユークロマチン遺伝子では、H3R2me2aはH3K4me3と相互に排他的に分布
酵母の5,065遺伝子を転写レベルに応じて5段階に分類し、各段階におけるメチル化が遺伝子のどの領域に主に分布しているかを、ChIP-chip解析結果から抗体毎に示しています。
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