BRCA1 CpGアイランドのメチレーションDNAパターン分析

Gene Expression コーナー

Frédérique Magdinier1 and Robert Dante2*
1Laboratory of Molecular Biology of the Cell, Ecole Normale Superieure, Lyon, France
2Laboratory of Molecular Oncology, Centre Leon Berard, Lyon, France
*Corresponding author: dante@univ-lyon1.fr

イントロダクション

BRCA1遺伝子の生殖系例における変異は、40%の卵巣癌の生涯リスクと40~80%の乳癌の生涯リスクを与えます。BRCA1は腫瘍抑制遺伝子とし て働くようです。乳癌へのBRCA1の関与は家族性癌に限定されていないように考えられています。乳組織に体細胞変異がないにもかかわらず、BRCA1発 現のダウンレギュレーションはヒト散在性乳癌における悪性度に関係しています[1]。

腫瘍細胞において腫瘍抑制遺伝子のCpGジヌクレオチド5'末端での異常なメチレーションは、高頻度で遺伝子抑制に関与します。しかし、DNAメチレー ションパターンの分析は、比較的少ない(10~20%)乳癌の一部のみが、BRCA1の転写開始位置から-258~+43のプロモーター領域にメチル化さ れたCpGを持つ事だけを示しました[2]。総合すると、これらのデータは、エピジェネティックイベントが乳癌におけるBRCA1のダウンレギュレーショ ンに関与している可能性を示します。

BRCA1遺伝子はゲノムDNAの81 kbにわたり、双方向のプロモーターをNBR2と共有しています(BRCA1遺伝子2の隣:図1)。調節遺伝子は、nt-1810~nt+974(図1)の~2.8kbの大きなCpGリッチ領域に埋め込まれています。
DNAメチレーションはプロモーター領域から(1~2kb)離れた遺伝子転写を抑制します。
我々は、このBRCA1 CpGアイランドのメチレーション状態を調査しました。

材料と方法

DNA抽出

凍結粉砕した組織と細胞のサンプルから、一般的なプロティナーゼK/フェノール/クロロホルム法を用いてDNAを抽出しました。0.001% (v/v)β-メルカプトエタノールを用いて精子から脱凝集DNAを抽出しました。Assisted Conceptional Unit(E. Herriot Hospital, Lyon, France)から、人工授精後24時間の受精に失敗したヒト卵母細胞を集めました。
卵細胞(6~10/分析)由来のDNAを分析する際、最終容量100μl(50 mM Tris, 50 mM EDTA, 0.25 % SDS, 14μg/ml proteinase K)にキャリアーDANとしてプラスミドDNA 2μgを加えました。このミックスを55℃で2時間インキュベートしました。このときサンプルは「バイサルファイト修飾」の項で説明されるプロセスにあり ます。

PCRに基づくメチレーション分析

組織サンプルや細胞系から抽出されたDNAは、5倍量の過剰な制限酵素と適切なバッファーをもちいて37℃でオーバーナイトのインキュベーションを行い ました。制限酵素を65℃で1時間インキュベーションして失活させ、10 ngづつ等分した反応液をPCRに用いました。PCR増幅の条件は次のとおりです。一般的なTaq DNA Polymeraseバッファー、4% DMSO、3 mM MgCl2、100μM、4種類の各デオキシヌクレオチド3リン酸、0.25μMプライマー(上流:5'- TTGGGAGGGGGCTCGGGCAT-3';下流:5'-CAGAGCTGGCAGCGGACGGT-3')、0.6ユニットTaq DNA Polymeraseのミックスチャーで、Eppendorf thermocyclerで35サイクル(94℃1分間、55℃2分間、72℃3分間)行いました。

バイサルファイト修飾

DNA 4μg(3μgキャリアーDNAと1μgヒトゲノムDNA)やキャリアーDNA 2μgと卵細胞DNA を用いて、100μl中で亜硫酸水素ナトリウム反応を行いました。アルカリ変性(0.5 M NaOH, 37℃で30分間)したDNAを、[3 M NaHSO3、5 mM ヒドロキノン]中で50℃で16時間インキュベーションしました。修飾DNAを市販のDNA精製システムを用いて精製し、50μlの滅菌水に溶出しまし た。0.3 M NaOHを添加して修飾反応を止め、修飾DNAを0.5 M酢酸アンモニウム pH 4.6中のエタノールで沈殿し、水に再懸濁しました。

このDNAをNested PCRで増幅しました。最初のPCR増幅は、一般的なTaq DNA Polymeraseバッファー、100μM各デオキシヌクレオチド3リン酸、3 mM MgCl2、 0.25μMプライマー(上流:5'-TTTTGTTTTGTGTAGGGCGGTT-3'、下流:5'- CCTTAACGTCCATTCTAACCGT-3')、0.6ユニットTaq DNA Polymeraseの100μl容量で35サイクル(94℃1分間、55℃2分間、72℃3分間)の反応を行いました。最初のPCR反応の分注を internal primer(上流:5'-TGAGAATTTAAGTGGGGTGT-3'、5'-AACCCTTCAACCCACCACTAC-3')で同条件で反応 させました。

結果と考察

PCRに基づくメチレーションアッセイ

第一の実験では、PCRに基づくメチレーションアッセイを用いてBRCA1 CpGアイランドの全体的なメチレーションレベルを調査しました。ゲノムDNA断片の鎖長を規格化するため、DNAを制限酵素RsaIで切断しました。さらに認識配列内部のC基のメチレーションにより切断阻害が起こるCfoI(GCGC配列)とHpaII(CCGC配列)で切断し、コントロールとして認識配列内部のC基のメチレーションに感受性の無いMspI(CCGG配列)を用いました。そのため、RsaIはBRCA1 CpGアイランド断片内(nt-3053~-649)で切断し、PCRで-1714~-1005を増幅しました。それぞれの実験で、RsaIで切断したサンプルを増幅効率を確認する為に増幅しました。分析した配列は9箇所のHpaII認識サイトと9箇所のCfoI認識サイトをもちます。そのサイトがメチレーションされている場合、すなわち2種類のメチレーション感受性制限酵素が切断できなかった場合にのみ、PCRを行えます。典型的な実験は図1をご覧下さい。

得られたデータでは、ヒト体組織(65サンプルでは胎児組織と同様に正常組織も癌化組織も)とセルラインはHpaIIサイトとCfoIサイトはメチル化されていました。しかし、ヒト精子DNAはメチル化されていませんでした(図1b)。

この分析により、ゲノムDNA部位のメチル化状態を非常に迅速にスクリーニングする事が可能となり、多様なプライマーを使用することで、対象のシークエンスに沿って“歩行(walking)”出来ます。
しかしながら、この分析は定量的というよりも定性的で、一部のケースのメチレーションパターンは、サザンブロットや、ゲノムDNAのバイサルファイト修飾による個々のCpGのメチレーション状態の直接決定[3]による分析が必要です。

バイサルファイト法の有効性

PCR産物のシークエンスに続く亜硫酸水素ナトリウム修飾法は、CpGパターンの決定に用いられます。亜硫酸水素ナトリウムは非メチル化シトシンをウラ シルに変換し、メチル化シトシンは変換しません。結果的に、そのウラシルはPCR増幅中にチミジンに置き換わります[4]。

修飾反応後、DNAを2ステップPCRで増幅します。サンプルの全体的なメチレーション状態を決定する為に、PCR産物(-1643~-1358)を切断します。完璧に修飾されていることは、変換されていないDNAしか切断しないDdeIで切断することで確認します。メチル化分子から得られるPCR産物はポジション138に新たにEco RIサイトを示し、メチル化されていない分子から得られるPCR産物はポジション165に新たにHphIサイトを示します。
バイサルファイト修飾後のPCR増幅の感度は、精子由来の非メチル化DNAとHBL100由来のメチル化DNAを様々な割合で混ぜる事で観察されました。それぞれの分析で、PCR産物の分注液をDdeIでインキュベートし(非メチル化DNA)、EcoRIでインキュベートし(メチル化DNA)、HphIでインキュベートし(非メチル化DNA)ました。制限酵素で切断されたPCR産物の量は、バイサルファイト修飾分析で使用したメチル化DNA/非メチル化DANの比率に直接的に関連していることを示しました。

BRCA1 CpGアイランドのバイサルファイト配列による分析

体組織と生殖細胞由来のDNAはこの方法を使用して修飾し、PCR産物をクローニングしてシークエンスを決定しました。分析した領域内 -1643~-1358において、ヒト卵母細胞とヒト精子由来のDNAでは、分析した22のCpGサイトはメチル化されていません(図3)。それに対し て、卵細胞周辺の放線冠の体細胞を含む全ての体組織とセルラインでは、CpGはメチル化されていました(図3)。ヒト配偶子中のCpGアイランド内の DNAメチレーションの欠如は、BRCA1遺伝子の本体までは及ばず、そのためコントロール実験は、体組織と配偶子においてエキソン11の2つの領域の両 方がメチル化されている事を示し、CpGアイランドのメチレーションがBRCA1発現において調節的役割をになっている事を示唆します。

結論

研究対象領域のPCR増幅と組み合わせたゲノムDNAのバイサルファイト修飾は経済的な手法であり、特殊な設備を必要としません。既知の領域の広範囲な DNAメチレーションパターンは、PCR産物の制限酵素切断によって非常に容易に決定できます。さらに、PCR産物のクローニングとシークエンスを行うこ とで、より正確なメチレーションパターンのマッピングが可能です。

リファレンス

  1. Narod SA, Foulkes WD (2004) Nat Rev Cancer 4: 665 -676
  2. Magdinier F et al. (1998) Oncogene 17: 3169 -3176
  3. Magdinier F et al. (2000) FASEB J 14: 1585 -1594
  4. Martin V et al. (1995) Gene 157: 261 -264

Order INFO

関連製品名 製品番号 包装単位 希望価格
Proteinase K, recombinant, PCR Grade, solution 3115887
3115828
3115844
1.25 ml
5 ml
25 ml
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Taq DNA Polymerase,
1 U/μl, dNTPack
4738225
4738241
250 U
1,000U
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PCR Nucleotide Mix 1581295
1814362
200 μl
2,000 μl
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Cfo I 688541
688550
1,000 U (10 U/μl)
5,000 U (10 U/μl)
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Dde I 835293
835307
200 U (10 U/μl)
1,000 U (10 U/μl)
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Eco RI 703737
1175084
200310
606189
5,000 U (10 U/μl)
10,000 U (10 U/μl)
10,000 U (40 U/μl)
50,000 U (40 U/μl)
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Hpa II 239291
656330
1207598
1,000 U (10 U/μl)
5,000 U (10 U/μl)
5,000 U (40 U/μl)
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Msp I 633518
633526
1047647
1,000 U (10 U/μl)
5,000 U (10 U/μl)
5,000 U (40 U/μl)
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Rsa I 729124
729132
1047671
1,000 U (10 U/μl)
5,000 U (10 U/μl)
5,000 U (40 U/μl)
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図1:BRCA1-NBR2遺伝子座。
(a)この遺伝子座は鎖長2,784bpのCpGアイランドを含みます(% G+C: 57; ObsCpG/ExpCpG: 0.65; CpGProD software, http://pbil.univ-lyon1.fr; Repeat Masker software, version 2002)。(b)BRCA1 CpGアイランドの広範囲なメチレーションレベル。予測どおり、メチレーション非感受性制限酵素MspIで切断したゲノムDANからはPCR産物は得られませんでした。対照的に、メチレーション感受性制限酵素Hpa IIでの体細胞由来DNAの切断後、PCR産物は得られ、分析した領域内のCCGGでゲノムDNAがメチル化されたことを示しています。対照的に、精子ゲ ノムDNAからはPCR産物が得られず、これらのサイトはメチル化されていない事を示しています。コントロール反応として、DNAをRsaIで切断しました。
図2:バイサルファイト法の有効性。
(a)BRCA1-NBR2遺伝子座。(b)PCR産物の制限酵素切断。HBL100細胞由来DNA(メチル化)と精子DNA(非メチル化)を様々な比率 で混ぜ合わせ、バイサルファイト法で修飾しました。そのDNA(ポジション-1643~-1358)を増幅しました。それぞれ、PCR産物を非修飾DNA 切断するをDdeI、メチル化と非メチル化由来のPCR産物を切断するEco RIとHphIで処理しました。
図3:BRCA1 CpGアイランドのメチレーションパターン。
バイサルファイト修飾と研究目的領域のPCR増幅の後、PCR産物をクローニングしてシークエンスしました。各サンプルについて10~14回の分析を行いました。
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BIOCHEMICA2006NUMBER3(No104)

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