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氏名:恵比須省吾 1(shogo.ebisu@proteinexpress.co.jp)、岡本直明 2(n_okamoto@ot.olympus.co.jp)
所属:1株式会社プロテイン・エクスプレス、2オリンパス株式会社
ゲノム解析からタンパク質の機能・構造解析への展開が急速に進んでいる。 蛍光標識タンパク質を用いたタンパク質の機能・相互作用解析は迅速かつ極めて重 要な方法であり、 現在その測定系の開発と応用が各方面で積極的に進められている。 現在利用されているタンパク質の蛍光標識方法は、化学反応を用いた標識が 一般的であるが、任意の部位に蛍光標識を導入できない、 導入される蛍光色素の数が制御できないなどの問題点がある。芳坂らは4塩基コドンを用いる非天然型 アミノ酸の効率的かつ特異的な導入方法の開発に成功している(図1)。 すなわち、遺伝子上で非天然型アミノ酸を導入したい位置のコドンを4塩基コドン (CGGGなど)に置換し、 別途アンチコドン部位に4塩基コドンに相補的な4塩基アンチコドン(CCCGなど)をもつ 非天然型アミノ酸-tRNAを合成 し、これらを用いて無細胞タンパク質合成を行わせ、任意の位置に非天然型アミノ酸を導入する方法である。
本稿では、芳坂らの4塩基コドン法による、タンパク質の任意の位置に蛍光標識を導入できるピンポイント蛍光標識法を活用し、その蛍光標識タンパク質を用 いてタンパク質と生体分子との相互作用を蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy:FCS)で解析を行ったので報告する。
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図1:4塩基コドンを用いた非天然アミノ酸のタンパク質への導入法の原理。 4塩基コドンCGGGを、4塩基アンチコドンCCCGを有する非天然型アミノ酸結合tRNAが読み取ることで、非天然型アミノ酸がタンパク質にピンポイ ントに導入される。一方、4塩基コドンの3塩基部分を天然のtRNAが読み取った場合には読み枠がずれて、下流の終止コドンでタンパク質合成は停止する。 |
Streptavidin (SA), Anti-Lysozyme Camel-antibody (CA), Glutathione S-Transferase (GST) それぞれの遺伝子を4塩基コドン (CGGG)を含む断片としてPCR法により増幅し、 pIVEX2.3 のNco I/Sma I サイトに組込み、それぞれの発現ベクター pIVEX2.3-SACGGG, pIVEX2.3-CACGGG, pIVEX2.3-GSTCGGGを得た。
蛍光色素としてはTAMRA(インビトロジェン株式会社)を使用し、p -TAMRA-X-amino-L-phenylalanine(TAMRA-AF)を付加したジヌクレオチドpdCpAを化学合成し、 別途T7 RNAポリメラーゼにより作製した4塩基アンチコドンCCCGをもち3'末端の2塩基が欠損したtRNAとT4 RNAリガーゼにより連結してTAMRA-AF-tRNACCCGを調製した。
大腸菌無細胞生産システム (RTS100 E.coli HY)を使用し、TAMRA-AF-tRNACCCG と4塩基コドンCGGGを有する発現ベクターを用いて タンパク質へのTAMRA-AFのピンポイント導入を行った。 30℃、4時間のタンパク質合成を行 い、発現産物を10-20% SDS-PAGE にて分画後、励起波長532nm、測定波長605nmによる蛍光イメージ解析 (FM-BIOIII、日立ソフトエンジニアリング株式会社) を行った。 反応液を18,000×Gにて10分間遠心後、その上清を5mMイミダゾール並びに150mM NaClを含むリン酸バッファー(pH7.4)にて平衡化した Ni-Hi-Trap (1ml;GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社) に吸着させ、 次いで500mM イミダゾールを含むリン酸バッファーにて溶出し、精製TAMRA標識タンパク質を得た。 TAMRA標識精製タンパク質は、同様に蛍光イメージ解析と銀染色 で確認を行った。
TAMRA標識タンパク質をリン酸バッファーにて適宜希釈後、1分子蛍光分析システムMF20(オリンパス株式会社)を用いてFCS解析を行った。
初めにTAMRA標識タンパク質とタンパク質に取り込まれなかった未反応のTAMRA色素の割合を2成分解析法により求めた。 さらに、TAMRA標識 SAと抗SA抗体、TAMRA標識ラクダ抗リゾチーム抗体と抗原であるリゾチーム、 TAMRA標識GSTと抗GST抗体とを反応させその相互作用解析を 行った。
3種類のTAMRA標識タンパク質(SA, CA, GST)を4℃、−20℃、−80℃にて1ヶ月保存後にFCS解析を行い蛍光標識タンパク質の安定性も調査した。
RTS100 E.coli HYを使用し、TAMRA-AF-tRNACCCGと4塩基コドンCGGGを有す る3種類の発現ベクターを用いたタンパク質合成、 並びにそれらタンパク質の精製結果を図2に示した。 3種類のタンパク質とも効率よくTAMRA色素が導入 され、またNiカラムにより効率よく精製された。 精製したTAMRA標識タンパク質とタンパク質に取り込まれなかった未反応のTAMRAとの割合を2 成分解析により求めたところ、 3種類のタンパク質ともTAMRAで蛍光標識されたタンパク質の割合が80%以上であり、 タンパク質の相互作用を1分子蛍光 分析システムMF20でFCS解析するためには十分な純度であった。 TAMRA標識タンパク質の生産量は、RTS100 E.coli HY 1mlの反応系にて数µg以上が生産されていた。 この生産量は、1分子蛍光分析システムMF20によるタンパク質相互作用解析を数百回行うことのできる量であった。
3種類のTAMRA標識タンパク質とそれぞれの抗体並びに抗原との相互作用解析を行った結果を図3に示した。 何れの場合も、FCSで算出される拡散時間 (Diffusion Time)の優位な上昇が認められた。拡散時間が上昇しているということは、 分子の大きさが相互作用するによって大きくなっているということを示してお り、この拡散時間の上昇が検出されたことによって、 TAMRA標識タンパク質とそれぞれの抗体並びに抗原との相互作用が効率よく検出できた。 また一般に、 FCS解析においては、蛍光標識したタンパク質に対する結合タンパク質の分子量は3~5倍以上の場合に検出可能とされているが、 ピンポイント標識蛍光標識 タンパク質を使用した本測定の場合は、 TAMRA標識ラクダ抗リゾチーム抗体(17kDa)と抗原であるリゾチーム(20kDa)の相互作用が検出可能で あることから 、同等の分子量のタンパク質相互作用解析を検出できることも判った。
3種類のTAMRA標識タンパク質(SA, CA, GST)を4℃、−20℃、−80℃にて 1ヶ月保存後にFCS解析を行い蛍光標識タンパク質の安定性を調べた結果、いずれの条件においても、 蛍光標識タン パク質の数に変化は無く、ピンポイントTAMRA標識タンパク質が非常に安定であることが判った。
現在タンパク質の蛍光標識には、多くの場合化学反応での標識がおこなわれている。今回4塩基コドンによるピンポイント蛍光標識法と化学標識法の比較も 行ったところ、ある種のDNA結合タンパク質ではピンポイント蛍光標識法にて作製したタンパク質はDNA結合活性を保持していたが、 化学標識タンパク質は DNA結合活性を消失するという実験例を得ることができた。化学標識法の場合、 タンパク質内のリジン残基やシステイン残基が蛍光標識されるが、ランダムに それらのアミノ酸の側鎖が標識されることにより、 構造・機能に悪影響を及ぼすことが懸念される。一方、ピンポイント蛍光標識法では、 活性に影響を与えない 部分に蛍光標識アミノ酸を導入することが可能であり、活性を保持した状態での蛍光標識タンパク質を得ることが出来るという優位点が確認できた。
最近、芳坂らのグループは、4塩基コドン法によるタンパク質の2重蛍光標識を、 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)によるタンパク質の立体構造解析に適 用している。 すなわち、FRETを起こす2種類の蛍光色素をタンパク質のN末端側とC末端側に2種類の異なった 4塩基コドンを用いたピンポイント標識法に より導入し、その立体構造変化をFRETシグナルとして捉えることに成功している。 また、タンパク質のリン酸化などの翻訳後修飾はタンパク質の機能発現に は極めて重要であるが、 リン酸化アミノ酸のタンパク質への導入を、本法を用いて可能にするなど4塩基コドン法の応用、発展が期待されている。
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図2:TAMRA標識タンパク質の生産と精製 RTS100 E.coli HYを使用し、TAMRA-AF-tRNACCCG と4塩基コドンCGGGを有する3種類の発現ベクターpIVEX2.3-SACGGG, pIVEX2.3-CACGGG, pIVEX2.3-GSTCGGGを用いてタンパク質合成を行った。それらタンパク質をNi-HiTrapにより精製し、3種類のTAMRA標識タンパク質を得た。 |
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図3:TAMRA標識タンパク質を用いたFCSによるタンパク質相互作用解析 3種類のTAMRA標識タンパク質とそれぞれの抗体および抗原との相互作用解析を行った結果を示した。何れの場合も、Diffusion Timeの有意な上昇が認められ、効率よくタンパク質相互作用が検出できた。 |
RTS E.coli HYを使用し、TAMRA-AF-tRNACCCG と4塩基コドンCGGGを用いてタンパク質を部位特異的かつ効率的にTAMRA標識することができた。
TAMRA標識Streptavidin, Anti-Lysozyme Camel-antibody, Glutathione S-Transferaseと、それぞれの特異抗体または特異抗原との結合はFCSにより効率的に検出できた。さらに、このようにして合成したTAMRA 標識タンパク質は、1ヶ月以上の保存においても安定であった。
ピンポイントTAMRA標識タンパク質を用いたFCS解析は、タンパク質相互作用解析の大きなツールの一つとなることが期待される。
BIOCHEMICA2006 NUMBER1 (No102)
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