学術的なご相談、資料請求、機器サポートなど、お客様のさまざまなニーズに対応します。
Vadim V. Demidov
Center for Advanced Biotechnology, Boston University, Boston, USA
in vivo では異種タンパク質を同時に発現させようとする場合、かなりの確率で発現に何らかの問題が発生します。多くのリコンビナントタンパク質の細胞内での不安定 性や不溶性は現在一番大きな問題です。また細胞毒性は細胞培養ベースのタンパク質発現システムでのもう一つのボトルネックで、多くの場合、一般的なホスト 細胞を使用する限りタンパク質発現は大変難しくなります。化学合成方法も考えられますが、基本的にはオリゴペプチドの合成のみにしか使用できません。
これらの問題の解決方法として、無細胞系タンパク質合成システムの導入があります[1-4]。タンパク質の細胞毒性、不安定性、不溶性に加えて、in vivo でのタンパク質合成技術はこれまでの細胞発現システムが本質的に抱えているポリペプチド合成の収量が低いと言う問題も解決する可能性があります(表1と下 記の例を参照)。この無細胞タンパク質合成システムは、RTSシステム( Rapid Translation System )としてロシュ・アプライド・サイエンスから購入する事ができ、これまでに使用されてきた細胞ベースのタンパク質発現の問題解決のための強力なツールとな ります[5-7]。
無細胞タンパク質合成システムは、in vivo でタンパク質生合成系(例えば、リボソーム、mRNA、tRNAs、アミノ酸、アミノアシルtRNAシンテターゼ、その他必要な因子等)を使用する事でタ ンパク質合成を行います。典型的なものとして、テストチューブを使用したバッチ反応によるタンパク質合成系が基礎研究分野では広く知られています。これら の反応時間は通常1~2時間であるため、合成されるタンパク質の収量が大変低く、タンパク質の量が必要なアプリケーションには使用する事ができませんでし た。それまでのセルフリーシステムではバッチ法でのタンパク質合成を行っていたため、タンパク質合成に必要な基質等の急速な枯渇と、合成反応で生じる老廃 物による阻害がその主な原因です。
この問題は1980年代後半にAlexander S. Sprin等の研究チームによって解決されています。この方法” Continuous-exchange principle”を使用する事で、相当量のタンパク質をin vivo 合成系で行う事が可能となりました[3-4]。彼らが開発したこの”Continuous-flow Cell-free ”と”Continuous-Exchange-Cell-free”システムでは、反応時間をかなり長くする事ができ(20-100 hr)、高い生産性(mgオーダー)は様々なアプリケーションに使用する事が可能となります。Sprin博士によると、彼らの独占技術は間もなくロシュ・ アプライド・サイエンスに移行され、無細胞系でのハイスループットでのタンパク質合成用の試薬と機器が導入される予定との事でした。この新しい無細胞系シ ステムであるRTSシステムを使用する事によって、様々な発現が難しいタンパク質を、異なるスケールで合成する事が可能となります(下記の例をご参照くだ さい。)。
RTSシステムでは、異なるスケールのRTS専用の反応容器すべてにCECFの原理が採用されており(RTS 100 E. coli HY kitは除く)、転写と翻訳のカップリング反応でタンパク質合成を行います。このRTSシステムはロシュ・ダイアグノスティックスより販売されています (詳細な情報は“RTS Application Manual 〔5〕”を参照してください。)。2種類の本〔1,2〕で無細胞系の様々なプロトコールを確認する事ができます。ここでは、RTSシステムがタンパク質合 成で大変強力なツールである事を示すために、幾つかの例を下記に示しています。
最近行われた無細胞系の使用例として、高い細胞毒性を持つRickettsia conorii タンパク質合成の例を示します。Rickettsiaは細胞内で増殖する小さな細菌のファミリーで、malaria plasmodium 等のように人に感染し、発疹や熱、またはインフルエンザのような症状を引き起こす事で知られています。Rickettsia タンパク質は、大腸菌や昆虫細胞等のホスト細胞中で発現された場合、大変有害であるためin vivo テクノロジーでのタンパク質発現を行う事ができません〔8〕。
そのためR.conorii タンパク質の合成を、無細胞タンパク質合成系(RTS 500 E. coli HY kit)を使用して行われています。この方法は、簡単に最適化が可能で、構造解析や機能解析用に、クローン化されているRickettia タンパク質すべてがミリグラムオーダーで合成されています〔8〕。
得られているリコンビナントのRickettia タンパク質の一つは、病理学上鍵となる酵素であるフォスフォリパーゼで、これに関しましては現在研究が行われています〔9〕。
in vivo の場合、特に原核細胞をホストにした発現系の場合、分子量が大きなタンパク質によっては分解が起きたり、途中で翻訳が終了したりする場合があります。これ によってタンパク質の断片化が起き、結果として収量も低くなります。一つの例は、大腸菌発現系では生産性の低い97kDaのタンパク質である酵母の tRNAリガーゼです。一つの選択枝として、この難しいタンパク質の合成を無細胞系で合成が試みられています。この実験では原核細胞のライセート系として RTS 100 E.coli HY Kit、真核細胞のライセート系としてRTS 100 Wheat Germ CECF kitが使用されています〔10〕。
結果としては、E. coli システムでは完全長のtRNAリガーゼの量は低い収量でしたが、驚いた事に、小麦胚芽ライセートシステム( RTS 100 Wheat Germ CECF Kit )を使用した場合、分解されていない、機能活性があるtRNAリガーゼが効果的に生産されており、ほとんどが可溶性画分に存在していました。
in vitro タンパク質合成系を使用した場合でも、膜タンパク質等の不溶性のタンパク質の合成は大変難しいのが現状です。最近、脂質膜の代わりに界面活性剤をタンパク 質合成反応溶液中に添加し、大腸菌の膜タンパク質 “ Mechanosensitive channel MscL ”の合成が効率的に行われており、無細胞系が膜タンパク質合成に対して大変有効な選択枝である事が示されています〔11〕。この実験では、スモールスケー ルでのタンパク質合成系としてRTS 100 E.coli HY Kitが使用されており、大量のタンパク質合成系としてはRTS 500 E. coli HY kitが使用されています。また、無細胞系でのタンパク質合成への非イオン系界面活性剤等の利用が幅広く検討されており、結果として、機能活性を保持したMscLがミリグラムオーダーで合成されています。
RTSシステム( RTS 100 E.coli HY kit & RTS 500 E.coli HY kit )を使用した最近のタンパク質合成例として、大腸菌の膜タンパク質であるマルチドラッグトランスポーターであるEmrEの合成があります。この実験でもミ リグラムオーダーのEmrEタンパク質が合成されましたが、界面活性剤は使用されていません〔12〕。またこの実験で重要な事は、界面活性剤中で可溶化さ れた後でも、タンパク質は完全に機能活性を保持していた事です。
これらの例からも、一般的に難しいとされている膜タンパク質の合成法として、無細胞系タンパク質合成系が大変有用なツールである事が確認されています。
幅広いジェノミックプログラムやプロテオミクスプログラムに対して、多数のリコンビナントタンパク質を可溶性タンパク質として合成する事は重要です。またそのためのタンパク質合成反応条件の最適化のハイスループット化が必要となります。しかしながら、明らかにin vivo の発現系をもとにした場合、ハイスループット化は困難を極めると考えられます。相当量の可溶性タンパク質を合成するために、温度や界面活性剤の添加剤の種類等のパラメーターの最適化検討には、無細胞系の使用によって迅速で簡便となります。
RTS 100 E. coli HY kitを使用して、分子量が11.7kDaから44.6kDaの範囲の異なる微生物由来の24種のタンパク質合成によってタンパク質の可溶性に影響する要因の検討が行われています。この実験結果からタンパク質合成の自動化のためにはRTS 100 E. coli HY Kitは適切なキットである事を示されています〔13〕。
また必要であれば、検討され可溶化された可溶性タンパク質のスケールアップが簡単に行う事ができます。
RTSシステムは、いわゆる合成困難なタンパク質の合成がスモールスケール、またはラージスケールで可能となります。この強力なツールによって、細胞培 養、または動物や植物等の細胞を使用したタンパク質合成工場の重要性が低下していくと思われます。RTSシステムの使用によりマイクロチップ上でのセルフ リータンパク質合成を行う事も可能となります〔14〕。個人的には今後もこのツールを使用していきたいと考えています。理由はタンパク質合成にあまり精通 していない場合でも、この興味深いテクノロジーを使用する事でタンパク質合成を簡便に行う事ができるためです。今回のレポートによって、より多くの研究者 がRTSシステムに興味を持ってもらい、またタンパク質合成を新しく行おうと考えている研究者にとっても有用なツールとなる事を願っています。
詳細はスペシャルインターネットサイトへ…
www.proteinexpression.com
BIOCHEMICA2005 NUMBER4 (No101)
当社のカタログに掲載する製品は、ライフサイエンス分野の研究のみを目的としています。特に明記のない限り、診断用途目的には使用できません。カスタムバイオテック製品は、特に明記のない限り工業原料用のみを目的としています。
本ウェブサイトでは、幅広い利用者を対象とした製品情報を掲載しています。お住まいの国では利用できない製品、もしくは認可を受けていない製品の詳細情報が掲載されている場合もあります。それぞれの居住国における正当な法的手続や規制、登録、慣習法を満たしていない可能性のある情報の閲覧に関しては、当社は一切の責任を負いません。
〒105-0014 東京都港区芝2-6-1