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Michael Steckel and Michael Boutros*
German Cancer Research Center, Boveri-Group Signaling and Functional Genomics, Heidelberg, Germany
ゲノム全域にわたるスケールでの遺伝子機能解析を行う為には、遺伝子発現レベルを定量可能な信頼性の高い迅速な方法が必要です。最近の遺伝子機能解析に おけるキーとなる技術革新は、RNA干渉(RNAi)の登場で、この技術は、目的とする内因性のmRNAに相同性のある短鎖の二重鎖(ds)RNAを導入 することにより多細胞生物で遺伝子のサイレンシングを可能とするものです[1]。RNAiは無脊椎動物や哺乳動物の培養細胞における遺伝子発現のサイレン シングに好結果をもたらしており、以前にはできなかった機能損失の研究を可能としました。RNAiは、生理機能や疾患に関連する多数のシグナリングパス ウェイのノックダウンした構成要素の発現形質の影響を研究する方法として広く使用されるようになりました。RNAiの実験をモニターする為には厳密に品質 管理の施された方法が必須となります。そのような方法論には以下のようなことが要求されます。(a)多種類の遺伝子についての検討に対応できるフレキシビ リティの高いアッセイデザイン。(b)遺伝子発現レベル検討の精確性。(c)複数遺伝子の同時並行的な発現レベル測定の可能性。
RT-PCRは相対的、絶対的な遺伝子発現レベルの定量技術として普及してきました。増幅産物量の測定やテンプレート濃度の決定を行う為にいくつかの技 術が開発されました。SYBR Green Iを用いた方法もその一つで、この色素は二重鎖DNAに特異的に結合する為、増幅産物量をうまく測定することができます。しかしSYBR Green Iは潜在的なプライマーダイマーや非特異的PCR産物をも検出してしまいます。従って、厳密なプライマーやPCR条件の最適化が必要になります。二つめの 方法は目的とする増幅産物の内部配列に特異的に結合するように設計した蛍光色素標識プローブを使用する方法です。この方法は目的外のPCR産物の測定を除 外することができます。例えば、加水分解プローブ(TaqMan® Probe)はプローブに標識された、ある種の蛍光物質と、特異的な目的遺伝子配列とハイブリしていない場合はバックグランド蛍光を減少させるクエン チャーと呼ばれる物質から構成されています。目的PCR産物にハイブリすると、Taqポリメラーゼの5'-3'エクソヌクレアーゼ活性がプローブを分解 し、消光していた蛍光物質が蛍光を放射します。
残る技術的な課題は、RT-PCRアッセイのデザインのフレキシビリティや、実験系の最適化の必要性です。膨大な量のRT-PCR実験を行う為には、 SYBR Green Iアッセイの手軽さと加水分解プローブの特異性の両方が必要となります。我々はモデルとしてショウジョウバエにおけるシグナルトランスダクションシステム を用い、Drosophila Universal ProbeLibraryを使用した目的遺伝子のmRNA濃度の測定系を開発しました[2]。
Drosophila Universal ProbeLibraryは、通常の加水分解プローブで用いられる20-25ヌクレチド(nt)よりも短い8-9 ntの90種類のプローブで構成されています。高親和性ヌクレオチドアナログであるLNA (locked nucleic acid)を包含させることにより、プローブ-DNAの二重鎖は従来の長さの非修飾プローブ-DNAの二重鎖が示す融解温度とほぼ同じ融解温度を持つよう になり、標準的な定量的PCR条件を使用することが可能です。Universal ProbeLibraryプローブは、その長さが短い故に、トランスクリプトーム中に何度も重複して存在する配列を検出することができる為、90種のプ ローブでトランスクリプトームのほぼ全体をカバーすることができます。特異性を確保する為には、注意深くプローブや対応するプライマーの選択を行う必要が ありますが、オンライン アッセイ デザイン ソフトウェアであるProbeFinder (http://www.universalprobelibrary.com) により、適切なプライマーペアとそれにマッチしたプローブを検索可能です。
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| ProbeFinderフロント画面 |
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| ProbeFinderでの検索結果例 |
Drosophila SL2細胞は、10%ウシ胎児血清[PAA]とペニシリン-ストレプトマイシン[Invitrogen]添加Schneider's 培地[Invitrogen]にて25℃で培養しました。免疫反応の賦活化の24時間前に、500万個の細胞を1.5 mlの無血清培地中に懸濁し、35-mm組織培養用ディッシュ[Greiner]に蒔きました。RNAi実験の為に、15μgのdsRNAを細胞培養培地 中に添加しました。1時間のインキュベーション後、2 mlの血清を含む培地を添加し、24時間後25 cm2組織培養フラスコ [Greiner]に細胞を移しました。蛋白消費を確実にする為に、細胞を84時間インキュベーションしました。免疫反応を賦活化させる為に、熱不活化E. coli (200 ng/ml)に感作させることにより10、30、60、120、180分間、細胞を刺激しました。
まずジェノミックDNAから遺伝子特異的プライマー(T7プロモーター配列を含む)を用いて、PCRにより目的とするフラグメントを増幅しました。次 に、その増幅産物をin vitro 転写し、dsRNAを作製しました。dsRNAは精製後、ゲル電気泳動により品質をチェックしました。下記のプライマーはimd をサイレンシングする為のdsRNA合成の際に用いたPCR増幅用プライマーです:
Forward 5'-TAATACGACTCACTATAGGATGTCAAAGCTCAGGAACCT、Reverse 5-TAATACGACTCACTATAGGATGCTGACCGTTTTGCGCG。プライマーが標的としているショウジョウバエゲノム中の各種遺伝子 の完全な情報はhttp://rnai.dkfz.de.で利用できます。
標準的な方法により、細胞から抽出されたtotal RNAを逆転写しました;4μgのトータルRNAをDNase Iにて30分間処理した後、逆転写反応を行いました。
反応液量は20μlで、常法に従い2μlの10倍希釈cDNAを使用しました。反応にはLightCycler® 2.0インスツルメント及び LightCycler® TaqManマスター、Drosophila Universal ProbeLibrary(プライマー情報は表1参照)を使用しました。リボゾームタンパク質Rp49の発現レベルをデータの標準化に使用しました。
| 製品名 | 製品番号 | 包装単位 | 希望価格 |
| LightCycler® TaqManマスター | 4535286 | 96回反応 | ←製品番号をクリック |
自然免疫系を制御しているシグナリングパスウェイは、様々な生物種において宿主の防衛反応を左右する主なメカニズムを理解する為に研究されてきました。 近年、ヒトにおいて免疫反応を制御している多くの遺伝子メカニズムが、ショウジョウバエのような遺伝子工学的に取扱い易いモデル生物においても良く保存さ れていることがわかりました[3]。TollとIMD/Rel.と呼ばれている2種類のNFκB(転写因子:遺伝子の発現を調節する細胞内のタンパク質) 依存性パスウェイが遺伝学的に試験されました。これらの2つのパスウェイは強力な抗菌活性を有する小さな分泌性ペプチドの産生を制御しています[4]。
ショウジョウバエにおける細菌感染に対する防御機構にはTollパスウェイとIMDパスウェイの二種類があります。特に真菌やグラム陽性菌の感染には Tollパスウェイ、グラム陰性菌やジアミノピメリン酸型のペプチドグリカンをもつ細菌の感染にはIMDパスウェイが働くと言われています。これらのパス ウェイは現在までの研究から上記の微生物の侵入を検知し、シグナル伝達、分泌性抗菌ペプチドの産生増加などの生態防御反応を誘導することが知られていま す。ヒトのTLR(Toll like Receptor)の“Toll”はまさにこのショウジョウバエのTollパスウェイからきており、IMDパスウェイも哺乳類のTNF-αパスウェイと遺 伝子の共通部分が多いことがわかっています。従って、昆虫、哺乳類をはじめ多くの多細胞動物において、ほぼ同じ遺伝子群からなるシグナル伝達系を免疫に関 するシグナル系として使用していると考えられています。
我々はこれまでに、これらの標的遺伝子を用い、シグナリングパスウェイにおける変化を検討する為にLightCycler® 2.0でSYBR Green I RT-PCRアッセイを行ってきました[5]。各NFκBパスウェイは標的遺伝子の特定セットの発現を活性化しています。標的遺伝子の発現レベルの変化を 測定することは、パスウェイの活性化をモニターする為の一つの方法です。グラム陰性菌の表面構造を認識することによりIMDパスウェイは活性化されます。 このパスウェイはCecropin(Cec)、Attacin(Att)、Metchnikowin(Mtk)などの抗菌ペプチドの発現を制御していま す。キナーゼTak1はIMDパスウェイの構成物であるばかりでなく、JNKシグナリングパスウェイや、それに続くpuckered(puc) やmatrix metalloprotease(mmp)といった特定の標的遺伝子の発現の活性化をも担っています(図 1)[6]。
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| 図1:IMDパスウェイ グラム陰性菌による免疫反応の賦活化により、IMDパスウェイは活性化されます。Tak1の下流はRelishとJNKパスウェイに分岐し、各々その特定 目的遺伝子へと繋がります。 |
我々はまず、IMD分岐の両方に対応した一連のmtk、attA、cecA2、pucといっ た標的遺伝子のRT-PCRアッセイ系をデザインしました。ProbeFinderソフトウェアによりプライマーペアとそれに対応したプローブを検索しま した。最初に、我々は、標的遺伝子cDNAの段階希釈系列を用い、検索されたプライマーペアでのPCR効率を測定することによりアッセイ系のパーフォーマ ンスを検討しました。図2aに示したように、rp49 プライマーはcDNA量として0.052 pgから52pgの間で、PCR効率2.0で機能しました。同様の結果が、他の総てのデザインされたRT-PCRアッセイについて得られ、期待される PCR効率は1.9-2.0でした(データ未掲載)。
我々は次に、グラム陰性菌による免疫刺激後のパスウェイ活性化のタイムコースを行うことで、パスウェイ誘導を解析しました。培養Drosophila SL2細胞の培地に熱不活化E. coli の懸濁物を添加し、10、30、60、120、180分間、細胞を刺激しました。続いて、目的遺伝子の発現レベルを上記RT-PCRアッセイ法を用いて測 定しました。免疫反応を引き起こす抗原投与後10分でcecでは2倍、pucでは10倍(データ未掲載)のパスウェイ誘導が 観察されました。
cec の転写物のレベルがアップしたのに対して、pucではそのレベルは保持されました(データ未掲載):30分後、cec 転写物レベルは3倍、120分後には60倍の誘導が観察されましたが180分後にはそれ以上の増加は観察されませんでした(図2b及びデータ未掲載)。予 想通り、標準化の目的で使用したribosomal遺伝子であるrp49 はインキュベーション中には発現レベルに変化はありませんでした(図2b)。これらの実験結果から言えることは、Universal ProbeLibraryアッセイはリアルタイムPCRアッセイに必須であった最適化作業を必要とせず、従来法で得られる結果と同様に正確な遺伝子発現定 量が行えるということです。
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| 図2:(a) デザインしたアッセイ系の質的評価 Rp49 プライマーを使用したPCR効率は4段階の10倍希釈cDNA系列を使用して決定しました。 |
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| (b)IMDパスウェイ活性化のモニタリング 活性化はRelishの標的遺伝子(cec)発現を定量することにより測定しました。Rp49 レベルは一定でした。 |
次に、パスウェイ構成要素や目的物の発現が、RNAiにより遺伝子ノックダウンが行われた後に減少するかどうかを試験しました。無脊椎動物における RNAiは長いdsRNAに対するインターフェロン応答が欠落している為、非常に効果的です。培養Drosophila 細胞においてRNAiを行う為に、ターミナルT7プロモーターを含むDNAテンプレートから500-700 bpのdsRNAを合成し、そのdsRNAを培養メディウムに添加するだけで[7]、これらのdsRNAは未解明のメカニズムにより細胞によって自律的に 取り込まれ、細胞内で21 merの機能性siRNAにプロセッシングされます。この実験方法を使用することにより、我々は必須構成要素であるIMDを減少させた後の標的遺伝子の変 化をモニターしました。imd に対するdsRNAとインキュベートした細胞をオーバーナイトでE coli により刺激しました。ネガティブコントロールとしてgreen fluorescent protein(gfp)に対する RNAiを使用しました。抽出トータルRNAを逆転写した後、Universal ProbeLibrary を用いてcecA2 転写産物を測定しました。cecA2 発現レベルは、rp49 レベルが影響されないのに対して、imd に対するRNAi後は顕著に減少していました(図3)。これらの結果は、標的遺伝子の発現を誘導するにはIMDが必要であることを明確に示しています。我 々は更に、imd 転写産物のノックダウンがRT-PCRアッセイを用いて観察されるかどうか検討しました。図4に示した通り、imd に対するRNAiはそのmRNAレベルを効果的に91%も減少させていました。
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| 図3:パスウェイ構成物のノックダウンの影響 RNAiはimd を減少させる目的で使用されました。cecの標的遺伝子の誘導変化が示されています。Rp49 は影響されていません。 |
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| 図4:imd のノックダウン imd に対するRNAiは効果的にその転写産物レベルを減少させています。 |
シグナリングパスウェイの体系的な解析は、現代の生物学のキーとなるファクターです。遺伝子発現レベルのダイナミックな変化を測定する為の定量的で多種 多様なツールの開発は重大で挑戦的な課題と言えるでしょう。RNAiを用いる方法論は、細胞性パスウェイでのタンパク質の役割の研究に広く使用されていま す。一つの遺伝子が一つの特異的なシグナリングパスウェイにおいてその役割を果たしているかどうかを調べる為には、その発現をRNAiによってサイレンシ ングし機能欠失させた表現型について、シグナリングパスウェイでの標的遺伝子発現の調節を観察することにより検討が可能です。本実験はプレデザインされた プローブセットが、遺伝子発現の定量的アッセイ系の開発において高いフレキシビリティを持っていることを示しています。従って、RNAiとRT-PCRの コンビネーションは、シグナル変換パスウェイにおける特定遺伝子の関連を調べる為の非常に強力なツールとなります。Universal ProbeLibraryのようなプレデザインされたプローブは、時間がかかり、従来法で必要であった高価なアッセイ開発フェイズを顕著に短縮することを 可能としました。
7つの生物種特異的Universal ProbeLibraryセットをご用意しています。それぞれのセットには90本のプレバリデートされたプローブが含まれます。それぞれのプローブは 50μl反応で250アッセイが可能です。すべての生物種について165本のプローブを個別にオーダーする事も可能です。これらは、50μl反応で500 アッセイが可能です。
| 製品名 | 製品番号 | 希望価格 |
| Universal ProbeLibrary セット、ヒト | 4683633 | ご照会 |
| Universal ProbeLibrary セット、マウス | 4683641 | |
| Universal ProbeLibrary セット、ラット | 4683650 | |
| Universal ProbeLibrary セット、霊長類 | 4683617 | |
| Universal ProbeLibrary セット、ショウジョウバエ | 4683625 | |
| Universal ProbeLibrary セット、線虫 | 4683609 | |
| Universal ProbeLibrary セット、シロイヌナズナ | 4683595 |
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表1:定量的リアルタイム PCRで使用されるプライマー
| 転写産物 | プライマー forward | reverse | プローブ# |
| cecA2 (CG1367) | ggacaatcggaagctggtt | tgtgctgaccaacacgttc | 78 |
| puc (CG7850) | gccacatcagaacatcaagc | ccgttttccgtgcatctt | 23 |
| rp49 (CG7939) | cggatcgatatgctaagctgt | gcgcttgttcgatccgta | 10 |
| imd (CG5576) | cctttcgagaaggcacagtt | tgcctttgtgtttctttgctc | 2 |
| attA (CG10146) | cacaatgtggtgggtcagg | ggcaccatgaccagcatt | 65 |
| mtk (CG8175) | ccaccgagctaagatgcaa | tctgccagcactgatgtagc | 90 |
BIOCHEMICA2005 NUMBER3 (No100)
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