RTS 100小麦胚芽CECFキットを用いた3種類のイネカルモジュリンの機能発現

Protein Expression コーナー

氏名:赤間 一仁
所属:島根大学生物資源科学部生物科学科

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RTS 100小麦胚芽CECFキット 3728811 24回×50μl反応 ←製品番号をクリック

イントロダクション

グルタミン酸脱炭酸酵素 (GAD:EC 4.1.1.15.)は、グルタミン酸の脱炭酸反応によるγ-アミノ酪酸 (GABA)への変換を触媒する。GADは細菌から植物、動物にいたるまで広く分布するが、特に高等植物ではそのC-末端側にカルモジュリン結合部位 (CaMBD)が見出され、カルシウム/カルモジュリン(CaM)を介した酵素活性の調節がなされている。植物のCaMは動物のものに比べて、多数の異な るアイソフォームから成り、それらが細胞内の様々なCaM結合性タンパク質の活性調節に関与するものと考えられる。われわれはイネからGADをコードする 完全長cDNAを単離し(GAD1)、ウシCaMを用いた試験管内結合実験から、GAD1のC-末端領域がCaM結合能を持つこと、大腸菌の系で発現誘導 を行った組換えGAD1がウシCaM存在下でその活性が著しく高まることを確認している。今回小麦胚芽キット (RTS 100 Wheat Germ CECF)を用いてイネの3種類のCaMアイソフォームを合成し、いずれも精製ウシCaM標本と同様にイネGAD1の酵素活性を上昇させることを確認した。

材料と方法

GAD発現ベクターの構築と発現誘導

イネのGAD1をコードする完全長cDNAのORF領域を、PCR法を用いて増幅して、発現ベクターpET32a(Novagen)のNco I/Xho Iサイトに組込んだ。プラスミドは大腸菌株BL21(DE3)(Novagen)に形質転換し定法に従って発現誘導を行い、Ni-NTAアフィニティーカラムを用いて目的の組換えGAD1を精製した。

CaM発現ベクターの構築

3種類のイネカルモジュリン(CaM1, CaM2, CaM3と呼ぶ。それぞれの推定分子量は16.8kDa、16.8kDa、21.0kDa)をコードするcDNAを持つプラスミドをスタートとして、 CaM1とCaM2を含むORFはPCRを用いて増幅し、pIVEX 1.3 WG (C-末端にヒスチジンタグが付加)とpIVEX 1.4 WG(N-末端にヒスチジンタグが付加)のNco I/Sma Iサイトに組込んだ。また、CaM3をコードするcDNAはNco I/Bam HI切断により得られたインサートを上記発現ベクターの同じ制限酵素サイトに組込んだ。PCR産物の塩基配列はシーケンシングにより確認した。

小麦胚芽での試験管内タンパク質合成

3種類のイネCaMアイソフォームはプロトコールに従い、50μlの反応系で24℃、24時間、900rpmの条件でプロテオマスターを用いRTS 100 WG CECFキットで合成した。反応後に適量の全反応サンプル、遠心後の上澄み(可溶性分画)、沈殿(不溶性分画)をそれぞれ20% SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分画し、タンパク質はメンブレンに電気的に転写し、抗ヒスチジンタグ抗体を一次抗体として、アルカリホスファ ターゼ標識抗IgG抗体を二次抗体として検出を行った。

ヒスチジンタグを利用した組換えタンパク質の精製

反応サンプルを20,000 gで20分間遠心して、上澄みは5 mMイミダゾールを含むバッファー(50 mM Tris-HCl, pH 7.5, 200 mM NaCl, 1mM DTT, 1 mM PMSF)で平衡化したNi-NTAアガロースに加えて、4℃で一晩回転しながら吸着させた。アガロースは20 mMのイミダゾールを含む上記バッファーで3回洗浄し、250 mMイミダゾールを含む同組成のバッファーで溶出した。

GAD酵素活性の測定

精製した2μgのイネ組換えGAD1を含む反応バッファー (100 mM ピリジン塩酸, pH 5.0, 1 mM DTT, 5 mM グルタミン酸, 0.5 mM ピリドキサール5'-リン酸, 0.5 mM CaCl2, 10 % (v/v) グルセロール)に最終濃度が0.1μMになるように各種CaMを加えて30℃で一定時間反応を行った。産生されたGABA量はGABase (シグマ:シュードモナスのGABAアミノトランスフェラーゼとコハク酸セミアルデヒド脱水素酵素を含む)を用いた簡便な蛍光測定法により求めた。

結果とアプリケーション

試験管内での発現と精製

3種類のイネCaMアイソフォームをコードするcDNAのORFを発現ベクターpIVEX WG 1.3とpIVEX WG 1.4にそれぞれ in-frameで組込み、小麦胚芽ライゼート(RTS 100 WG CECFキット)を用いて目的タンパク質の合成を行なった。その結果、pIVEX WG 1.3にクローニングしたものではタンパク質の合成が見られなかった。これに対して、pIXEX WG 1.4にクローニングしたものでは、全てにおいてタンパク質の合成が確認された。合成後のサンプルを遠心により可溶性分画と不溶性分画に分けて、ゲル電気 泳動による分離後にメンブレンに転写し、抗ヒスチジンタグ抗体を用いたウエスタン解析から(図1)、3種のCaMともに同程度の効率で合成されたこと、分 子量マーカーから、ヒスチジンタグが付加された組換えCaMはほぼ予想される分子量を示したこと、そしてタンパク質のほとんどが可溶性であること、合成過 程での分解産物はないことが分かった。

小麦胚芽ライゼート中の組換えイネCaMタンパク質は反応サンプルを遠心後に、上澄みを回収して、Ni-NTAアガロースを用いたアフィニティーカラム クロマトグラフィーにより精製を行った。ゲル電気泳動による分析から、ウエスタン解析で得られたものと同一分子量の単一バンドが検出された(図2)。ま た、分子量マーカーとの比較から、50μlの反応系からの組換えイネCaMの合成量は5~10μgと推定された。

図1:RTS 小麦胚芽CECFキットを用いた3種類のイネCaMアイソフォームの発現。
3種類のCaMタンパク質は50μlの反応系で24℃、24時間、900 rpmの条件でプロテオマスターを用いて、N-末端側にヒスチジンタグを持つ組換えタンパク質として発現した。適量の全反応液サンプル(T)、遠心後の可 溶性画分の上澄み(S)と不溶性画分の沈殿(P)をそれぞれ20 % SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に掛けた。タンパク質はメンブレンに転写し、抗ヒスチジンタグ一次抗体とアルカリフォスファターゼ標識IgG二次 抗体を用いて組換えタンパク質を検出した。
図2:Ni-NTAアガロースを用いた組換えイネCaMタンパク質の精製。
RTS小麦胚芽ライゼートでイネのタンパク質を合成後にサンプルを遠心し、その上澄みにNi-NTAアガロースを加えて一晩混合した。CaMを吸着したア ガロースを洗浄して、250 mMイミダゾールを含むバッファーで溶出した。精製タンパク質は10~20% SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画し、CBB染色を行った。1:ウシ精巣由来のCaM(シグマ)、2:組換えCaM1、3:組換えCaM2、 4:組換えCaM3

 

組換えCaMを用いたイネGAD1の酵素活性の測定

高等植物のGADはそのC-末端側にCaMBDを持つことが知られており、様々な植物種からGADをコードするcDNAが単離されている。そして、大腸 菌の系を用いて合成された組換え植物GADは、試験管内で反応系にカルシウムイオンとウシCaMを添加することで10倍以上の活性上昇が観察されている。 イネから単離したGAD1 cDNAを発現ベクターに組込み、定法に従った大腸菌発現系によって、目的の組換えGAD1タンパク質を合成・精製した。酵素活性を調べるために、GAD をまず、基質グルタミン酸を含む混合液に加えて反応した。次に、生成されたGABAはGABase(GABAアミノトランスフェラーゼとコハク酸セミアル デヒド脱水素酵素)による2段階の酵素反応に供した。この反応過程で1分子のNADP+の還元が生じ、還元型NADPHの蛍光測定からGABA含量を間接 的に求めた。GABase反応によりGABAスタンダードは蛍光強度と明確な相関を示した(図3のGABA標準)。GAD酵素反応の際に、反応サンプルに コントロールとして超純水、あるいはウシ血清アルブミン(BSA)を添加したものでは、微弱な蛍光しか観察されなかったが(図3のサンプル#1と2)、ウ シ由来のCaMを加えたものでは強い蛍光が観察された(図3のサンプル#3)。また、RTS 100 WG CECFキットを用いて合成したイネ組換えCaMを添加したものでは、蛍光強度は、CaM1が最も高く、次にCaM2であり、CaM3は相対的に弱い蛍光 が観察された(図3のサンプル#4,5,6)。以上の実験結果から、試験管内で合成されたイネ由来の3種類のCaMは程度の差はあるものの、いずれもイネ GAD酵素活性の促進効果を持つことが分かった。

図3:カルシウム/CaMによるイネGAD酵素活性の促進効果。
組換えイネGAD1酵素を含む反応系に対して、超純水(1)、ウシ血清アルブミン(2)、ウシCaM(3)、組換えCaM1(4)、組換え CaM2(5)、組換えCaM3(6)をそれぞれ加えて、30℃で15分と30分反応後にサンプリングを行い、0.1 Mピロリン酸バッファー(pH 8.4)に移して反応を停止した。これに対して、GABaseを含む酵素反応混合液(α-ケトグルタル酸とNADP+を含有)を加えて、37℃で1時間保 温した。GABAのコハク酸への変換に伴う還元NADPH量をトランスイルミネーターで蛍光観察した。コントロールとして、ウェル当り0、1、2、5、 10、20 nmolのGABA標準を同様にGABase反応に供した。

 

要約

RTS小麦胚芽CECFキットを用いることで、イネのCaMを効率よく可溶性タンパク質として合成することに成功した。50μlの反応サンプルから、ア フィニィティー樹脂を用いることで少なくとも5μgの精製タンパク質を得た。この量は機能解析を行うための分析的な実験に十分な量であった。イネGAD1 酵素を標的とした機能解析の結果、試験管内で合成した3種類のタンパク質のいずれもウシのCaMと同様にイネGAD活性の促進効果が観察された。よって、 タンパク質の複数のアイソフォームを可溶性分画に同時に効率よく発現させる上で、RTS 100 WG CECFキットは大腸菌発現系に代わる優れた方法であると言える。

リファレンス

  1. Akama K et al. (2001) Biochim Biophys Acta 1522: 143-150
  2. Baum G et al. (1993) J Biol Chem 268: 19610-19617
  3. Englert M, Beier H (2004) Biochemica 3: 27-29
  4. Graham LT, Aprison MH (1966) Anal Biochem 15: 487-497
  5. Lee SH et al. (1997) J Biol Chem 14: 9252-9259
  6. Shelp BJ et al. (1999) Trends Plant Sci 4: 446-452

 

BIOCHEMICA2005 NUMBER3 (No100)

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