ライトサイクラーを用いたDNAのHypermethylation(高度メチル化)のスクリーニング

Gene Expression コーナー

GENE EXPRESSION ワークフロー

はじめに

ゲノムDNAのシトシン塩基へのメチル化修飾は遺伝子の情報発現制御、特に抑制に重要な役割を果たしていることが知られるようになりました。脊椎動物ゲ ノムのDNAでは、CpG配列と呼ばれるジヌクレオチド配列(5'…CG…3')にS-アデノシル-L-メチオニンからDNAメチルトランスフェラーゼの働きによりシトシン塩基の5位にメチル基が転移されます。ゲノム上の総てのCpG配列は、その60~90%がメチル化されています。非メチル化CpG配列はゲノム上でクラスターを形成しており、通常、半数程度の遺伝子プロモーター領域に認められます。すなわち、ゲノム上に散在しているCpG配列の大部分はメチル化されており、転写活性化されている遺伝子プロモーター部分のCpGアイランドと呼ばれる高密度CpG配列は非メチル化状態になっています。

ヒト癌においては、DNAメチル化パターンは様々に変化しており、現在、発癌における重要な因子とされています[1]。つまり、癌細胞のゲノムにおいては多くの遺伝子の転写開始部位のCpGアイランドが高度にメチル化されています。CpGアイランドの高度メチル化は通常、それぞれの遺伝子もしくはプロモーターの転写サイレンシングに関与しています。従って、DNA高度メチル化のメカニズムの研究は癌だけでなく他の疾患においても、ある遺伝子のダウンレギュレーションが観察される場合には非常に重要となってきます。現在、この分野の研究には多くの方法論があり[2]、研究者の殆どはDNAのbisulfite処理法を利用しています。この方法は、メチルシトシンはこの処理により影響は受けないが、通常のシトシンはウラシルに変換されることを利用しています。従って、PCRを使用する場合には非メチル化シトシンはチミンとして扱われることになり、メチル化シトシンは、シトシンのままということになります。基本的にbisulfite処理を伴う方法論のゴールドスタンダードはシークエンスですが、この方法は、多くの情報が得られる一方で、手技が煩雑な上、費用がかかるという問題があります。

より迅速で簡単な方法論としては、メチレーション特異的PCRがありますが、これを行うには、bisulfite処理により遺伝子がどのように変化するかがよくわかっていなければなりません。いずれにせよ大規模なbisulfiteシークエンシングを行う前には、候補遺伝子の簡単で、安価なスクリーニングを行う必要があることに変わりはありません。より簡単な方法として、本稿ではライトサイクラーシステムを用いた融解温度分析(Melting temperature analysis)について紹介します。

この分析法は非常に単純明快です。bisulfite処理後、ライトサイクラーを用いてPCRを行います。すると、メチル化、非メチル化DNAから増幅されたPCR産物には、GC含量に違いが生じます。このGC含量の違いは、完全な非メチル化DNAから完全メチル化DNAを十分に識別でき、かつ検出可能な融解点の差異をもたらします[4]。しかし、高度メチル化はしばしば不完全であり、実際の組織や細胞株由来のDNAにおいては多くの場合、メチル化、非メチル化DNAの混在物です。従って、本法の有用性は、いくつかの部位もしくはDNA断片においてそのメチル化による変化を識別する能力によることとなります。

[融解曲線分析とは]

DNAの2本鎖が1本鎖に分かれる温度(融解温度)はその配列、長さ、GC含量、溶媒の塩濃度に依存して大きく変化します。ライトサイクラーシステムでは融解温度を分析するために、温度を徐々に上げながら(通常0.1℃/sec)サンプルの蛍光値を測定します。SYBR Green Iフォーマットでは温度の上昇による2本鎖DNAの解離に伴ってSYBR Green I分子が遊離するため、サンプル蛍光値が減少します。本稿中の図2-4はその蛍光値の減少をモニタリングしたものを、温度に対して蛍光値の負の1次微分行 いプロットしたものです。従って各曲線のピークは2重鎖DNAがちょうど半分量1本鎖DNAに融解したところであり、その時の温度がTm値ということになります。

材料と方法

全血サンプルや癌細胞株からの高分子ジェノミックDNA抽出にはblood and cell culture DNAキットを使用しました。徹底的なプロテイナーゼK消化は不完全なbisulfite変換を防ぐのに有用です。

メチル化DNAサンプルは、血中白血球より抽出したジェノミックDNAに対してHpaII、HhaI、もしくはSssIメチラーゼ(NEB社製)を用いて、特異的in vitroメチル化によって作製しました。DNAのbisulfite変換にはCpGenome DNA Modification Kit (Q-Biogene社製)を用いました。
25個のCpGを含むエストロゲン受容体β遺伝子(ESR2)のプロモーター領域273bp(1,912-2,185:GenBank Accession No. AF191544)断片をbisulfite処理後にライトサイクラーを用いて増幅しました(図1)。増幅にはLightCycler FastStart DNA MasterPLUSSYBR GreenIキットを用い、プライマーには、fwd: 5'-tt(ct)gttaggaggtagttgtaag-3'、rev: 5'-cacc(ag)accttaccaactctaaaata-3'を使用しました。その他、詳しい条件等は、英語版BIOCHEMICA 1・ 2005を御請求下さい。

[LightCycler FastStart DNA MasterPLUSSYBR Green Iキット]

本キットは従来のマスターミックス試薬と異なり、使用しているBufferの改良によりテンプレートとプライマー(プローブ)を添加するだけで簡単に実験が行える大変便利なキットです。もちろんMgイオンの最適条件を検討することもできますが、通常はMgイオンの検討は不要で、高い再現性、感度、増幅効率を得ることができます。

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製品名 製品番号 包装単位 希望価格
FastStart DNA MasterPLUSSYBR Green Iキット 3515869 96回反応用 ¥26,400
3515885 480回反応用 ¥70,000

結果

ライトサイクラーを用いた融解曲線分析の感度は、ESR2のCpGアイランドの配列を用いて検討しました。このESR2の配列は、前立腺癌や乳癌において高度にメチル化されている場合があります[5,6]。図1に示すように、273bpの増幅断片は25個のCpG部位を含んでいます。そのうち3個はHpaIIサイト(CCGG)、7個はHhaIサイト(GCGC)上に位置しています。また、若年健常人由来の白血球DNAにおいては完全に非メチル化状態にあります。

健常人由来のDNAはHpaII、HhaIメチラーゼ、これらの組み合わせ、もしくはSssIメチラーゼを用いてin vitroメチル化を行いました。これらの処理は3、7、10もしくは25個のCpGサイトのメチル化を引き起こします。これ等のDNA由来のPCR産物の融解曲線 分析結果を図2に示します。完全なメチル化は融解温度を83.7→88.8℃、即ち5.1℃シフトさせます。不完全なメチル化ではシフト幅が徐々に小さく なりますが、3個のメチル化でも0.7℃のシフトとなり、十分に識別可能です。つまり不完全なメチル化であっても高感度に検出可能であることが示されました。

ライトサイクラーを用いた融解曲線分析により、バックグランド(非メチル化DNA)に対してメチル化DNAがどの程度を検出可能か検討する為に、HpaII、HhaIメチラーゼによりメチル化したDNAを様々な量比で白血球DNAに混在させました(図3)。その結果、5-10%のDNA混在比まで検出可能なピーク"shoulders"となりました。

細菌由来のメチラーゼによりin vitroメチル化されたDNAに対して、組織、細胞株由来のDNAは、もし実際に高度メチル化が起こっている場合は、様々なメチル化パターンのDNAの混在物となります。このような「リアルワールド」において融解曲線分析の適応性を評価する為に、いくつかの細胞株由来のDNAを使用しました。これらのサンプルでは、高度メチル化の様々な頻度により多くの場合ブロードな曲線が得られました(図4)。ある種の細胞株や組織では、非メチル化DNAと明確にピークが一致しました(例:前立腺癌細胞株 PC3)。しかし、他のピークはメチル化コントロールにまたがる結果となりました。bisulfiteシークエンシング解析により高度メチル化されたESR2CpGアイランドを含むことが知られている前立腺癌細胞株LNCaPでは、>86℃にピークが示されました。興味深い、またやや意外なことに図4中のHT1376やT-24の結果に例示されたように、いくつかの膀胱癌細胞株においてはかなりの頻度の高度メチル化が潜在していることがわかりました。この分析により、VmCub1ではメチル化アレルと同様に非メチル化アレルが含まれていることが示されました。

図1:エストロゲン受容体β遺伝子(ESR2)のプロモーター領域における未修飾配列
大文字:CpGサイト、赤字:HhaIサイト、緑字:HpaIIサイト、下線部:未修飾フォワード、リバースプライマー配列。
図2:ESR2の融解曲線分析
白血球DNA由来のPCR産物の融解ピークとHpaII、HhaI、もしくはSssIメチラーゼにより処理され、結果として3、7、10、もしくは25個のCpGサイトがメチル化された白血球DNAの融解ピーク。
図3:ESR2の融解曲線分析
HpaII、HhaIメチラーゼ処理されたDNAを異なる量比で混在させた白血球DNA由来のPCR産物の融解ピーク。
図4:ESR2の融解曲線分析
各種癌細胞株由来のPCR産物の融解ピーク。白血球DNAを非メチル化コントロールとして使用。SssI処理白血球DNAをメチル化コントロールとして使用。

結論

以上の結果から、ライトサイクラーを用いた融解温度解析は、癌もしくはその他の疾患におけるCpGアイランドのDNA高度メチル化のスクリーニングに十分適用可能であることが示されました。また、より多くのCpGを含むより短い増幅産物を使用したり、塩濃度の調整をしたり、その他の蛍光色素を使用することにより、これ以上の感度が得られる可能性もあります。しかし、現在の感度レベルは、腫瘍組織おいて生理学的に意味のある高度メチル化を検出するには十分であると思われます。

本技術の高い感度は、理論的には多少意外です[4]。これは恐らく、DNAの高度メチル化が結果としてbisulfite処理後のGC含量の増加をもたらすことによるためと考えられます。従って、メチル化DNA由来のPCR産物は、通常の環境下で得られるピークと比較して高い温度における新規のピークとして示されます。しかしながらプライマーマルチマーのような目的外の産物などはより低い温度で融解します。従って、高温部におけるバックグランドレベルは低くなり、相対的に小さなシフトやマイナーなshoulderを容易に識別できるようになったと考えられます。

最近の研究で、簡単なスクリーニングによって膀胱癌細胞株において高度にメチル化されたESR2配列の存在が明らかになりました。エストロゲン受容体は膀胱の機能に役割を果たしていることは良く知られていますが、膀胱癌との関連は殆ど研究されていま せん。よって、このスクリーニングは、そのような変化が各々の組織において生じているのかどうか、また癌化と直接関係している可能性があるかどうかという 興味深い研究テーマを生むことになりました。

参考文献

  1. Jones PA, Baylin SB (2002) Nat Rev Cancer 3: 415-428
  2. Clark SJ, Warnecke PM (2002) Methods 27: 99-100
  3. Betz B et al. (2004) Hum Mutat 23: 612-620
  4. Guldberg P, Worm J, Gronbaek K (2002) Methods 27: 121-127
  5. Nojima D et al. (2001) Cancer 92: 2076-2083
  6. Zhao C et al. (2003) Oncogene 22: 7600-7606

著者:Andrea R. Florl, Christiane Hader, and Wolfgang Schulz
Department of Urology, Heinrich-Heine-University Dusseldorf, Germany

<注意>

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関連製品名 製品番号 包装単位 希望価格
ライトサイクラー システムDX400 3531414 1式 ご照会
ライトサイクラー システムST300 4484495 1式 ご照会

BIOCHEMICA2005NUMBER1(No98)

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