マイクロアレイ解析における トランスクリプター リバーストランスクリプターゼの使用

Tips & Facts

はじめに

遺伝子発現のマイクロアレイ解析は、分子生物学研究において、急速に、一般的なツールになっています。数万以上の遺伝子を同時にモニターする能力は、細 胞過程における転写産物の変化の先例のない概観を提供します。マイクロアレイは、宿主と病原体の遺伝子発現を同時にモニターすることが可能なため、Toxoplasma gondii などの細胞内病原体の遺伝的研究に有用です。しかしながら、T. gondii RNAは宿主細胞RNAに比べ、1桁以上も低濃度ですので、病原体の遺伝子発現のために至適化を行わなければなりません。ここ数年にわたる技術的な進歩は、この方法をより信頼性がありタフなものとしました。

奇妙なことに、実験体のRNAから標識DNAを作成する標準的プロトコールは、操作法において、おそらくもっともクリティカルなステップであるにかかわ らず、実質的には変化がありません。ほとんどの研究者は、蛍光色素が共有結合したデオキシヌクレオチドの直接取込みか、蛍光が標識されたアミノアリルデオ キシヌクレオチドの取込みを使用しています。この両法において、ターゲット標識反応の効率と、標識cDNA産物の品質は、使用するリバーストランスクリプ ターゼに、多くを依存します。

われわれは、さまざまなリバーストランスクリプターゼからのマイクロアレイデータを作成比較するために、アミノアリル標識反応を採用しました。

材料と方法

寄生体とRNA調製

寄生体(RH株)は、標準的プロトコールにより培養しました。NIH 3T3細胞を宿主細胞として使用し、寄生体は単層細胞溶解の前に遠心で採取しました。細胞をTRI試薬(Sigma)に再懸濁し、エタノール沈殿と2 - プロパノールによるインキュベーション操作を除き、RNAをメーカーのプロトコール通りに抽出し、RNeasy Midiカラム(Qiagen)に直接添加しました。サンプルの結合の後、推奨される洗浄と2回の追加の洗浄を行いました。RNAを450μlの RNaseフリー蒸留水で溶出し、エタノール沈殿を行いました。RNAは真空乾燥し、終濃度1μg/μlになるよう、RNaseフリー蒸留水に再懸濁しました。

図1.マイクロアレイの実験デザイン:単一のT. gondii RNA調製品を、全体を通じて使用した。各マイクロアレイのために、同じリバーストランスクリプターゼを両方の標識反応に用いた。色素はマイクロアレイへ のハイブリダイゼーションの前に、個別に結合した。各マイクロアレイからのデータは、単一のマイクロアレイに同時にハイブリダイズした2種類の個別に標識 したターゲットから派生している。4回のマイクロアレイ実験が、トランスクリプター リバーストランスクリプターゼと最新のRNase H- M - MuLVリバーストランスクリプターゼ(製品Y)の両方で行われた。

ターゲット標識反応

標識は、DeRisi研究室(www.microarrays.org)が発表したプロトコールを改変して行いました。改変は、アミノアリル dUTP:dTTPを6:4とする比率の増加を含みます。中和はTris - HClで行いました。すべての逆転写反応は、上述のとおりに抽出された15μgのトータルRNAを使用し、42℃で行いました。トランスクリプター リバーストランスクリプターゼの全ユニット数は、反応毎に20ユニット(10ユニットを添加し、1時間後に残りの10ユニットを添加)でした。製品Yの総 ユニット数は反応ごとに400ユニット(メーカーのプロトコールに従い、400ユニットを加え、2時間放置)でした。標識産物は真空乾燥し、34.5μl のHGMPハイブリダイゼーションバッファー(40% フォルムアミド、5xデンハーツ溶液、5xSSC、0.05 M Tris - HCl、pH 7.4、1.0 mMピロリン酸ナトリウム、0.1% SDS)、0.4μg酵母tRNA、0.96μg poly - dA、2.7% SDSに再懸濁しました。

ハイブリダイゼーション

この研究に使用したマイクロアレイは、シングルプリンティングランより取り、標準化されていないライブラリーからの、約12,000個のシークェンス済 みの発現シークェンスタグ(ESTs)からカスタムメイドしました。ESTsはPCR増幅し、プリンティングに使用された産物は、アガロースゲルにより量 と品質が分析されました。すべてのマイクロアレイは、肉眼により点検し、プリンティングの欠損を調べるため、サンプルをプレスキャンしました。マイクロア レイは55℃で1時間、ブロック(10% BSA、3xSSC)しました。スライドをMilli - Q水で洗浄し、遠心により乾燥しました。cDNA産物の固定は、産物のボイリングと95%エタノールへの漬浸により行いました。55℃で25分間ハイブリ ダイズ(0.001% SDS、10% BSA、3xSSC)し、Milli - Q水で2回洗浄し、100%エタノールで洗浄しました。ハイブリダイゼーションは、リフタースリップ カバースリップ(Erie Scientific)を使用して、42℃でオーバーナイト、湿式のマイクロアレイハイブリダイゼーションカセット内で行われました。ポストハイブリダイ ゼーションでは、段階的に濃度を減らしたSDS(溶液1: 0.5x SSC、0.1% SDS; 溶液2: 0.5x SSC、0.01% SDS; 溶液3: 0.06x SSC)でスライドを4分間洗浄しました。最後にスライドを遠心で乾燥させました。

スポットの検出とスキャニング

スライドは、Axon 4000Aスキャナーでメーカーの説明書に従い、スキャンしました。イメージは、150 nmの固定スポット径でGenoPix 4.1ソフトウェアによりスポット検出しました。スポットの中央蛍光値を、バックグランド補正なしあるいはチップを標準化し、最終解析に使用しました。

データ解析

マイクロソフト エクセルを、相関曲線とヒストグラムデータの作成に使用しました。遺伝子特異的効果の最終解析のために、Ct5/Cy3データもエクセルからGeneSpring 6.0にエキスポートしました。

結果と討論

マイクロアレイ実験は、多数のステップより構成されるため、いかなるステップの評価も、結果のデータから評定されます。理想的には標識ターゲットは、量 と表現においてインプットmRNAを正確に反映し、感度を最大限にする高い比活性を持ち、同じインプットmRNAを使用する反応間で均質でなければなりま せん。これらの3つの性質のうち、第1は、事前の酵素的研究から推測できます。第2、第3の性質は、図1のスキームを使用して実験的に評価されました。簡 単に言うと、単一のRNA源が一貫して使用され、各ターゲット標識は、個別のリバーストランスクリプターゼと色素結合反応により実行されました。各マイク ロアレイからのデータは、単一のマイクロアレイへ同時にハイブリダイズした、独立した標識ターゲットより派生しています。

ハイブリダイズされた標識ターゲットの相対比活性は、全体のマイクロアレイシグナルセットの総中間蛍光値により推計できますが、スポット(プローブ)ご とのシグナル強度の分布は、情報的により有用です。図2は、Cy5チャンネルからの9,737個の生の(標準化されていない)蛍光シグナルのヒストグラム の対応するセットを示しています。トランスクリプター リバーストランスクリプターゼに比べ、製品Xは0~5,000クラスにおいてより多数のシグナルがあり、より高い蛍光クラスでは相対的に少量となっていま す。このシグナル分布は、トランスクリプターが製品Xより、効率的にcDNAを標識したことを示唆しています。一方、トランスクリプターと製品Yは同様の シグナル分布を示し、半分以上のシグナルが5,000よりも大きなクラスとなっています。最も高いシグナルクラスのメンバーは飽和したシグナルであり、こ のうちの幾つかは、T. gondii 遺伝子のなかで大変、多量であると知られている転写産物です。トランスクリプターによる、このクラスの多数のシグナルは、製品Xの小数のシグナルに比べ、 相対的に強い標識反応であることを示唆しています。至適なレーザーパワーとPMTレベルは、3種類のマイクロアレイスキャンで同等ですので、イメージの集 積は結果の差異を説明できませんでした。
ターゲット標識の均質性は、実験的処理間の転写における真の差異を検出する、遺伝子発現のマイクロアレイ解析にとって重要です。同じインプットmRNA を実験に使用しているので、再現性のある結果を生み出す酵素の能力を試験することが可能です。トランスクリプターと製品Yを使用したマイクロアレイは各4 回繰り返されました。平均値に対してプロットされた各4重測定からの比(Cy5/Cy3)データは同様の結果を示し、トランスクリプターが製品Yに比べて 平均値への、より良い相関を示しました(図3)。これは、トランスクリプターによる4回の繰り返し実験において、傾向ラインから大きく離れているアウトラ イナースポットが少ない事が原因です。

図2. スポット蛍光当りのCy5生データのヒストグラム。
9,737スポットのCy5シグナルが3個のマイクロアレイそれぞれで定量化された。分布は、トランスクリプター リバーストランスクリプターゼや最新のRNase H- M - MuLVリバーストランスクリプターゼ(製品Y)に比べ、RNase H- M - MuLVリバーストランスクリプターゼ(製品X)によるシグナルのより高い割合が低位の蛍光クラスに存在することを表している。逆に、最も高い蛍光クラス (飽和)がトランスクリプターや製品Yで大きく存在することが示されている。
図3 a, b. Cy5/Cy3シグナル比データの相関プロット。
(a)トランスクリプターによる4重測定マイクロアレイと、(b)最新のRNase Hー M - MuLVリバーストランスクリプターゼ(製品Y)による4重測定マイクロアレイ。各酵素による繰り返し測定のセットは、それぞれの中間値に相関している。

多重測定データが、トランスクリプターと製品Yの両方で、より強いシグナル側に傾いた特定のスポットを検出するために、GeneSpringで処理され ました。幾つかのcDNAの検定により、トランスクリプターで最も高いシグナルに傾いたものは、全体的に欠損しているプローブに出現しました。製品Yで最 強シグナルに傾いた物は、より5'末端に最も近いところで欠損していました。この話題になりそうな観察は数種類の方法で解釈できました。少なくとも、トラ ンスクリプターの高い処置能力が、よりよい標識ターゲットを作成し、スポット/プローブcDNAが全体的に欠損している場合でも、より頑強なデータが作成 されたと考えられます。

結論

シグナル強度分布のヒストグラムは、トランスクリプター リバーストランスクリプターゼが効率的なターゲット標識に使用できることを示しています。多くの研究者は、ある一定の閾値(1,000~2,000)以下 のシグナル強度のデータを除外しますので、標識ターゲットの比活性の増加は、低発現の遺伝子の解析に重要です。

上記のデータは、トランスクリプターは現在のRNase H- M - MuLVリバーストランスクリプターゼと同様に標識ターゲットを作成することを示唆しています。4回の繰り返し実験はよりよい相関を持ち、トランスクリプ ターは、“ラインを外れた”スポットを減少させる、より均質な標識ターゲットを作成しています。トランスクリプターの既知の酵素特性(高い処置能力と RNase H活性)は、実験上のインプットmRNAを緊密に反映する標識ターゲットを作成します。これは、mRNA特異的、変動体の分析、多数のpoly - A+付加部位を利用する、転写物の3' - 末端に対してデザインされたプローブを含む、オリゴヌクレオチドマイクロアレイの最新世代での使用に重要です。

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トランスクリプター
リバーストランス
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BIOCHEMICA2004NUMBER1(No94)

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