構造決定のための、RTSでのin-vitro タンパク質製造

RTS 500(Rapid Translation System)コーナー

はじめに

バークレー構造ゲノムセンターのゴールは、Mycoplasma pneumoniaeMycoplasma genitaliumのゲノムにコードされているすべてのタンパク質の構造や、他の種の構造的ホモログを決定することです。このゴールを達成するために、バークレー構造ゲノム センターでは、X-線やNMR構造決定に用いるタンパク質のハイスループット発現法を開発しています。ロシュ・ダイアグノスティックスとの協力の下に、構 造研究に適する量での目的タンパク質の生成に、in vitroタンパク質発現用RTSが有用かどうかを評価しました。Methanococcus jannaschiiよりのテストタンパク質である、プロテインホスフォセリンホスファターゼで、大変勇気づけられる結果が得られました。Methanococcus jannaschiiよりのホスフォセリンホスファターゼは以前に構造決定がされています。この研究において、PSPはRTSによりミリグラムオーダーで作成され、PSPの構造決定にためのX-線やNMRでの集積データが、E. coliで作成されたPSPと比較されました。15N algal-アミノ酸と15N-グリシンを使用したNMRでの2種類の方法が比較されました。

材料と方法

PSP-pIVEXのクローニング
PSP遺伝子はpET-21a構築物から切断され、Nde IとBam H1制限酵素部位の間でpIVEX 2.3-MCSにライゲートした。新しい構築物、PSP-pIVEXはPCRと制限フラグメント分析により確証された。PSP-pIVEXプラスミド DNAはDH5-α E. coliの1 LでのLB培地で増殖され、プラスミドマキシキットで分離された。精製プラスミドの最終濃度は約0.37 mg/mlであった。

図1. RTSで作成されたPSPを示しているクーマシーブルー染色、15% SDS-PAGE。
約1μlの反応産物が各レーンにロードされている。

RTSでのPSPの発現

RTS E. coliHYキットをNMR用の標識タンパク質の発現に使用した。RTS 500 E. coli環状テンプレートキットは収量の比較に使用された。15μgのPSP-pIVEXを1 mlの反応に用いた。1 mlの反応液は連続的にRTS中で、攪拌スピード120 rpmおよび30℃で、エネルギー源やアミノ酸を含む10 mlのフィーディングミックスに対して透析された。20時間のインキュベーション後、5μlの溶液を取り、15%のSDS-PAGEおよびクマシーブルー 染色で分析した。反応は24時間で停止し、反応ミックスを1.5 mlのチューブに移し、精製まで-20℃で保存した。

PSPの精製
1 mlのRTS反応ミックスを2 mlの50 mM Tris(pH 7.5)で希釈し、三等分し1.5 mlチューブに移した。E. coliタンパク質を沈殿させるために、サンプルを70℃で30分間インキュベートした。沈殿を13,000 rpm、15分間の遠心でペレットとした。上澄を集め、分子量カットオフ6-8 kDの透析バッグに移し、1 Lの20 mM Tris(pH 8.4)に対して4時間透析した。透析後、サンプルを20 mM Tris(pH 8.4)で平衡化した1 ml ハイトラップ-Qカラム(ファルマシア)に通した。カラムを5 mlの20 mM Tris(pH 8.4)で洗浄した。フロースルーと洗浄物を1 mlのフラクションとして採取した。各フラクションよりの5μlを15%のSDS-PAGEおよびクマシーブルー染色で分析した。PSPを含むフラクショ ンが集められ、5 kDの分子量カットオフメンブレンを用い、4 mlのウルトラスピンコンセントレーター(ミリポア)で300μlに濃縮した。バッファーを20 mM Tris(pH 7.5)、300 mM NaCl、1 mM EDTA、10 mM DTTを含む3 mlの溶液で2回交換し、300μlに再濃縮した。次にサンプルを500μlのウルトラスピンコンセントレーターに移し、更に60μlに濃縮した。濃縮タ ンパク質サンプルを結晶化に使用した。

図2. RTS 500 E. coliHYキットを用いた1 mlの反応液から分離したタンパク質よりの結晶化PSP。
A)完全結晶化ドロップの写真。B)X-線回折に適する結晶のクローズアップ(100 x 150 x 100μm)

結晶化とデータ集積

RTSで作成したPSPタンパク質を、前回E. coliで製造したPSPを結晶化するのに用いた、ハンギングドロップ蒸気拡散法で結晶化した。1μlの濃縮PSPを、0.1 M 酢酸ナトリウムバッファー(pH 4.5)、0.2 M リン酸二水素ナトリウム、5 mM MgCl2、22% ポリエチレングリコール 2000 モノメチルエーテル(PEG2K MME)を含む1μlのウェル溶液と混合した。ミクロ-シーディングはドロップのセットアップ後、1時間行った。結晶は24時間以内に現れた。PEG2K MMEの濃縮は、結晶を安定化するために30%まで上げた。ドロップからの結晶を液体窒素で瞬間的に凍結し、クリオ-クリスタログラフィーでのデータ集積 に直接使用した。X-線回折データは結晶から140 mmに設置したArea Detector System Co. Quantum 4 CCD デテクターを用いて、Advanced Light Source(ALS)(Berkeley, CA)ビームライン 5.0.2で採取した。

図3. 図2B中の結晶から得られたX-線回折データ。
結晶回折の分解能は1.5Åで、E. coli発現PSP結晶の分解能と同じである。

“均一な”15N-標識PSP
RTS 500 E. coliHYキットと15N-algal アミノ酸(Cambridge Isotope Labs)を使用して、ほとんど均一な15N-標識PSPサンプルを作成した。algal アミノ酸の混合物は、algal タンパク質を加水分解して作成されるので、Asn、Cys、Gln、Trpを含まない。PSPタンパクには含まれないTrpを除き、他の3種類のアミノ酸の未標識型の42 mM溶液を15N algal アミノ酸に添加した。トータル2.805 mlの15N-algal アミノ酸ストック溶液を135μlのAsn、30μlのCys、30μlのGlnを加え、全量を3.0 mlとした。このアミノ酸標識ストック溶液を、RTS 500 E. coliHYキットと一緒に説明書通り用いた。濃縮ステップ以外は、上述と同じパラメーターをタンパク質の作成と精製に使用した。Hightrap-Qカラムの 後、フラクションを採取し、バッファーを10 mM リン酸ナトリウム(pH 6.5)、10 mM DTT、20 mM MgCl2、0.5 mM EDTAを含むバッファーで交換した。タンパク質は450μlまで濃縮された。15μlのD2Oをサンプルに加え、NMRデータ収集の前にpH 6.5に調整した。

15N-Gly標識PSP
15N-Gly標識PSPサンプルを、未標識Glyを15N-Gly(Isotech)に置換して、RTS 500 E. coliHYキットで作成した。ストック標識溶液はPSP中のアミノ酸組成に応じて、様々な濃度のアミノ酸を加えている。アミノ酸ミックスの全量は3.0 mlである。RTS 500 E. coliHYキットの説明書通り、ストック標識溶液を使用した。

NMRデータ集積
1H-15N HSQCスペクトラをBrucker AMX 600 MHzとDRX 500 MHzスペクトロメーターで記録した。各実験で、サンプル温度は25℃にセットし、トータル記録時間は17時間であった。データはNMRPipeソフトウェアで処理した。

図4. RTS 500 E. coliHYキットと15N algal アミノ酸を使用して、“均一に”標識したPSPの1H-15N HSQCスペクトラム。
スペクトラムはBrucker AMX 600 MHzスペクトロメーターで、サンプル温度は25℃にセットし、トータル記録時間は17時間で記録した。Asn、Cys、Gln、Glu残基に相当するピークは、15N algal アミノ酸ミックスにこれらの未標識アミノ酸を添加しているので、消失している。
図5. RTS 500 E. coliHYキットと15N Glyを使用して、選択的に標識したPSPの1H-15N HSQCスペクトラム。
スペクトラムはDRX 500 MHzスペクトロメーターで、サンプル温度は25℃にセットし、トータル記録時間は17時間で記録した。PSP中の15 個のGly残基の14個に相当するピークが観察された。

結果と討論

RTS反応は各反応において、簡単にセットアップとPSPの作成ができました。RTS 500 E. coliHYキットの1 mlの反応で、クルードミックス中2-3 mg、約1.5 mgの精製PSPタンパク質が得られました。更にRTSで作成したPSPタンパク質は、E. coliで発現したPSPと同一の条件で結晶化できました(図2)。ALSでのシンクロトロン放射により得られたX-結晶回析データは、作成された結晶が分離能1.5Åの回折を示す、高い品質のものであることを示唆しています。RTSで作成された、15Nで均一に標識されたPSPと15Nで選択的に標識されたPSPの1H-15N HSQCスペクトラは、NMR構造決定において心強い結果を示しました(図4と5)。最も弱いピークを除き、15N-Glyスペクトラムのすべてのピークが、15Nで均一に標識されたサンプルのスペクトラム中の相当するピークと重ね合わせることができました(図4)。もし同様の結果が、多数の目的タンパク質で得られるなら、RTSによる in vitroタンパク質合成は、構造生物学と同様、構造ゲノミクスでも中心的な役割を示すでしょう。

参考文献
1. Wang W et al. (2001), Structure Fold Design 9; 65-72.
2. Mori S et al. (1995), J Mag Reson B 108(1); 94-98.
3. Delaglio F et al. (1995), J Biomol NMR Nov, 6(3); 277-93.

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製品名 製品番号 包装単位 希望価格
RTS 500 コントロールユニット 3064859 1台 ←製品番号をクリック
RTS 500 E.coliHYキット 3246817 1キット
(2回反応)
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3246949 1キット
(5回反応)
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RTS 500 アミノ酸サンプラー 3262154 1キット
(5回用)
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BIOCHEMICA 2001 NUMBER 4(No. 85)

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