二本鎖DNA特異的結合色素の連続蛍光モニタリングによる定量的PCR

ライトサイクラー特集

Quantitative PCR by Continuous Fluorescence Monitoring of a Double Strand DNA Specific Binding Dye

Key Words:

ライトサイクラー、PCR、SYBRグリーンI、定量

Abstract:

ライトサイクラーとdsDNA結合色素SYBRグリーンIを用いて定量化PCRを簡便に行なう方法を示した。この方法は少なくとも6ケタのダイナミックレ ンジと反応当たりシングルコピーの感度を持つ。非特異的増幅産物よりの区別出来ないシグナルを除去する2つの方法を示した。この方法はDNAならびに RNAの定量に適している。

はじめに

核酸の定量において多くの方法がありますが、その中でも定量的PCRが選択される方法になってきました。この技術の高い感度と広いダイナミックレン ジは、手技の煩雑さより重要な優位性があります。しかしPCRにおける定量の困難さは、ほんのわずかなサイクルしか重要な情報を含まない事に起因します。 しばしば40サイクル中の4-5サイクルのみがカーブの“ログ-リニア”を表し、最初のテンプレート量に比例します。従来の定量的PCRでは、一つのサン プルを多くの反応チューブに分注し、1サイクル毎に1本のチューブを既知の濃度サンプルとのゲル上での比較分析に用いていました。

ライトサイクラーによる定量化は、これらの過程を大きく簡略化しました。サンプルはPCRの間、連続的にモニタリングされますので1回の反応で済み ます。ログ-リニア部分はコンピュータスクリーン上の蛍光データとして容易に同定されます。最も簡単なモニター法は反応生成物をdsDNA結合蛍光色素を 用いて、モニタリングする事です。新しい蛍光色素であるSYBRRグリーンIはエチジウムブロマイドより明るい蛍光を発します。しかしdsDNA結合蛍光色素は配列特異的ではないため、プライマーダイマーなどへの非特異的結合が低コピー数の定量を困難にしていました。

この問題を解決するためにも、ライトサイクラーによる連続的モニタリングは有用です。PCR産物は温度を上げていく事で融解しますが、産物のTmにおいて蛍光レベルの急激な減少が見られます。非特異的産物はより低い温度で融解していきますので、それにより増幅カーブを補正し、感度を反応当たり1コピーまで上げる事が可能です。

材料と方法

β-グロビンPCR条件

DNAの増幅は標準PCR条件で、ライトサイクラーで行なった。蛍光はアニーリング/伸長フェーズの終わりに測光した。メルティングカーブは増幅の終了時 にサンプルを20℃/秒で60℃まで冷却後、0.1℃/秒の割合で95℃まで温度を上げていく事で得られた。測光は0.1秒毎に行なわれた。

mRNAの定量条件

線維芽細胞を培養し、RNAを抽出後リバーストランスクリプターゼでcDNAを作製した。そのcDNAを増幅し、測光はTm値の2℃下まで熱した後5秒間行なった。

データ分析

定量データはライトサイクラーの分析用ソフトウェアで分析した。バックグランド蛍光はノイズバンドを設定する事で消去した。スタンダード増幅カーブのログ -リニア部分を同定し、交点はログ-リニア部分とノイズバンドが最適合する線と交叉する点とした。標準曲線はコピー数の指数に対する交点のプロットであ る。

増幅カーブの補正は増幅後のメルティングカーブを取り、ライトサイクラーのメルティングカーブ分析ソフトウェアによる特異的産物のピークエリアとメルティ ングカーブのトータルエリアを計算する事で行なわれた。各カーブのSYBRグリーンIシグナルは相対ピークエリアに比例して減じられ、テンプレートを入れ ないコントロール蛍光値も全てのカーブから引かれた。

結果と考察

SYBRグリーンIとメルティングカーブ補正を用いてのDNAの定量

SYBRグリーンIによるヒトβ-グロビン断片の10倍段階希釈物の増幅のモニタリングで図1の増幅カーブが得られました。

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図1. ヒトβ-グロビン遺伝子断片の0-100万コピーの増幅。全てのサンプルはSYBRグリーンIを含む。100万から1000コピーからの反応は容易に判別出来る。1000コピーから下の反応は、これらの低コピー数においてプライマーダイマーや非特異的PCR産物が優勢なためにオーバーラップしはじめている。

PCRの後、サンプルを70℃から90℃まで熱した際に図2に見られる融解結果が得られました。

温度がβ-グロビンのTm値(85℃)に達したとき、産物が1本鎖に変性されSYBRグリーンIが結合されないため、蛍光は急激に減少しました。0コピーサンプルはより低い温度で広い融解パターンを示しますが、これは短い非特異的産物の混合物からの蛍光を示しています。

融点の遷移はその温度における蛍光の負の微分数(-dF/dT)と、温度をプロットする事でより明瞭になります(図3)。このデータ変換により急激に蛍光が減少する温度部分での“メルティングピーク”が生成されます。このメルティングピークの中央がDNA産物のTm値で、100万コピーサンプルのみが85℃に中心を持つ単一ピークを示しています。0コピーサンプルは広い、低温度でのピークのみを示し、100と1000コピーサンプルは両方のピークを示しています。

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3. その温度での蛍光の負の微分数をとる事で、メルティングカーブはメルティングピークに変換される。DNA産物の融解は、産物のTmを中心とするシャープなピークとして容易に同定される。非特異的産物はより低い温度で溶解し、広いレンジにわたる。メルティングピーク全体のエリアは増幅産物量と相関する。約85℃でのメルティングピークの相関エリアは、特異的PCR産物量に相関する。

これらのメルティングピークのエリアはその温度での融解産物の量に相関します。それゆえ図1の増幅カーブを特異的産物よりのシグナルの割合を反映させて補 正する事が出来ます。図4はこの補正の結果を示しています。高コピー数のサンプルはほとんど補正の影響はありませんが、1000、100、10コピーサン プルはこれで簡単に区別する事が出来、1コピーも0コピーから分別出来ます。この補正はSYBRグリーンIによる定量域を3ケタ増加させました。

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4. メルティングカーブ補正により定量のダイナミックレンジは数ケタ増加した。

SYBRグリーンIを用いてのIL-1βメッセンジャーの定量

増幅カーブから非特異的産物のシグナルを除去する別の方法は、プライマーダイマーの融解温度より上の温度で蛍光シグナルを測定する事です。図3はほとんど のプライマーダイマーが82℃で融解するが、特異的産物はわずかしか融解しない事を示しています。プライマーダイマーの蛍光シグナルへの影響は82℃で最 小限になります。

この技術がラットIL-1βのメッセンジャーRNAの定量に用いられました。図5は1-100万コピーのIL-1βの精製PCR産物のスタンダードカーブ を表しています。ログ直線性は6ケタ全てで交わっています。低コピー数でもその直線性は保持されており、プライマーダイマーの夾雑シグナルは完全に除去さ れています。

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図5. 3種類の未知サンプルとSYBRグリーンIのスタンダードカーブ。交点はライトサイクラーのソフトウェアで計算した。ラインはそれぞれの増幅カーブのログ直線部分にフィットしている。全てのデータは1回の反応で得られた。

 

図5よりの結論は次の表のように要約出来ます。

処理 交点 IL-1βコピー数/反応
無処理 31.3サイクル 2.3
IL-1β(10 U/ml) 22.2サイクル 1,390
TNF-α(10 U/ml) 32.7サイクル 0.8

表1. IL-1βのメッセンジャーに対する処理の効果を表す。IL-1βメッセンジャーのレベルは細胞のIL-1β処理により600倍増加した。しかしTNF- αによる処理は転写には少しの影響しか与えなかった。このシステムによるmRNA定量のCV値はカーブの最も低い点で50%、スタンダードカーブの最も高 い点で6%であり、シングルコピーのテンプレートが検出可能であった。

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